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しかし、ムカシアリ属は地中暮らしをしているため、地上の罠にはかかりません。そこでムカシアリを捕まえるときは垂直に穴を掘って、地下に落とし穴の罠を設置します。
今回、西オーストラリア大学の生物学者チームは、同国北西部に広がる「ピルバラ(Pilbara)」という乾燥地帯で、地下に深さ25メートルほどの穴をドリルで掘り、アリを捕獲する罠を設置しました。
するとそこに、2匹のムカシアリ属が見つかったのです。
実際の写真がこちら。
この2匹はともに体長2ミリほどの細身の体をしており、砂粒よりもはるかに小さいものでした。
そのため、地中でも土の隙間を縫って楽に移動できると考えられます。
一方で、日の当たらない暗闇に住んでいるがゆえに体表面の色素沈着がなく、白っぽい体をしていました。
加えて、暗闇に適応したせいで両目も退化して消えており、彼らは嗅覚を使って移動していると見られます。
また非常に身体が脆く、調べようとすると簡単に損傷してしまったそうです。(上記の写真は損傷前に撮影された)
チームはこうした形態の詳しい分析や過去の文献調査から、この2個体がムカシアリ属の新種であると結論しました。
そしてチームは、新種の細身で白くつるりとした体と地中の暗闇にまぎれて生きる生態から、ハリー・ポッターシリーズに登場する闇の魔法使い・ヴォルデモート卿の名前を付けることにしました。
正式な学名は「レプタニラ・ヴォルデモート(Leptanilla voldemort)」となっています。
研究主任のマーク・ウォン(Mark Wong)氏は「ヴォルデモートも幽霊のように青白くて華奢な外見をしており、影の中で生きている」ことから、「ヴォルデモート卿に敬意を表して学名を付けたいと思った」と話しました。
またオーストラリアでムカシアリ属の新種が見つかったことも非常に貴重な成果です。
オーストラリアはアリの多様性が世界で最も高い国のひとつとされ、少なく見積もって1300種、多くて5000種以上が生息していると推定されています。
しかしながら、ムカシアリ属は1932年に見つかった「レプタニラ・スワニ(Leptanilla swani)」のみが知られており、それ以来の発見例はありませんでした。
今回のL. ヴォルデモートはオーストラリアで見つかった2番目のムカシアリ属となります。
それからウォン氏は「L. ヴォルデモートに見られる高度に専門家された鋭い下アゴから、本種はほぼ確実に捕食性であり、暗闇の中の恐ろしいハンターだと考えられる」と話します。
まだ本種がどのような獲物を狩っているかはわかりませんが、他種のムカシアリ属は自分たちよりもはるかに大きなムカデを捕食することが知られています。
L. ヴォルデモートも本家と同じように、闇の世界の帝王として土中を恐怖のどん底に陥れているのかもしれません。
参考文献
New species of ant found pottering under the Pilbara
https://www.uwa.edu.au/news/article/2024/april/new-species-of-ant-found-pottering-under-the-pilbara
Leptanilla voldemort, a ghostly slender new ant species from the dark depths of the underground
https://www.eurekalert.org/news-releases/1041065
元論文
Leptanilla voldemort sp. nov., a gracile new species of the hypogaeic ant genus Leptanilla (Hymenoptera, Formicidae) from the Pilbara, with a key to Australian Leptanilla
https://doi.org/10.3897/zookeys.1197.114072
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。