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スマートコンタクトレンズに硬くて分厚い部品や、少しでも刺激を与えるような装置を組み込んでしまうと、瞬きすら辛くなってしまいます。
この点、科学者たちは、小型で柔らかいチップを開発することで対応してきました。
しかし、電源の問題は一層難しいようです。
当然ですが、大きなバッテリーとワイヤーを目の中に入れることはできません。
既存の解決策のほとんどは、有線、もしくはワイヤレスによる外部電源に依存しています。
つまり、スマートコンタクトレンズに必要な電力を、外部から送るという手法です。
そのため、ほとんどのケースでは、コンタクトレンズ装着者の目や顔、またはその近くに目障りな外部装置を配置する必要があります。
そこまでするなら、「スマートコンタクトレンズではなく、スマートグラスで良い」と感じてしまうのが普通ですね。
スマートコンタクトレンズは、それ単体で機能するからこそ魅力的なのです。
こうした課題に取り組むため、プールシャバン氏ら研究チームは、スマートコンタクトレンズ内部に発電システムを組み込むことにしました。
今回、研究チームは、スマートコンタクトレンズ内に2種類の発電システムを組み込むことで、「スマートな機能」に必要な電力を供給しようと考えました。
その1つは、瞬きの涙で発電するシステムです。
このシステムでは、瞬きの動作で生じる涙(具体的には涙に含まれる電解質)がバイオ燃料として使用され、レンズに貼り付けられた金属と反応します。
空気金属電池のように、次のようなメカニズムで働きます。
まず、目が完全に開いているときは、システムはオフ状態です。
次に、まぶたが瞬きを始めると、涙の電解質がマグネシウムと接触。酸化反応と電子の生成を引き起こします。
最後に、完全に目が閉じられることで、涙の電解質がマグネシウムと白金の両方に接触し、マグネシウムの表面でのさらなる酸化反応と、白金の表面における酸素還元反応(oxygen reduction reaction)によって、エネルギーが生成されます。
涙は上まぶたの外側にある涙腺によって作られ、瞬きのたびに目の表面を通過します。
これを利用することで、瞬きのたびに発電できるのです。
しかも、涙は作られては流れ落ちていくものであるため、電極を洗い流して汚れるのを防いでくれます。
もう1つの発電システムには、柔らかいシリコン太陽電池を利用しています。
シリコン太陽電池は、生体適合性があり、湿気や太陽光で大きく劣化しません。
そこで研究チームは、小さなセル(1.5mm×1.5mm×0.1mm)8つを直列接続し、シリコンの一種で包み込んだ後、柔らかい基盤の上に取り付けました。
これにより、機械的な劣化や、人間のまぶたとシリコン太陽電池が直接接触するのを防ぐことができます。
この太陽電池システムでは、太陽だけでなく人工光源からの光でも発電できます。
そして、瞬き発電システムと太陽電池システムを組み合わせることで、目を開けている時も、また瞬きする時も、電力を効率よく生成できるようになりました。
このシステムは現在のところ、3.3Vで150μWの電力を生成するようです。
低出力ではありますが、スマートコンタクトレンズが外部電源なしで機能することを考えると、今後の進展に期待できます。
研究チームは、スマートコンタクトレンズの可能性として、緑内障などの病気や目の健康状態の監視、「ランナーの視界に心拍数や消費カロリーを表示する」「買い物中に商品を見るだけで情報を参照できる」などの拡張現実(AR)機能を挙げています。
「裸眼に見える人が、実はスマートコンタクトレンズを通して様々な情報を取り入れている」なんて世界が近づいてきたようです。
参考文献
Blink to Generate Power for Smart Contact Lenses
https://spectrum.ieee.org/power-smart-contact-lenses
元論文
Power Scavenging Microsystem for Smart Contact Lenses
https://doi.org/10.1002/smll.202401068
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。