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イズールトを開発した主な目的は、脳の構造を細部にわたって理解すること、それから薬剤投与などの医療タスクを行ったときに脳のどの部分がどのように活性化するかをこれまで以上の解像度で理解することです。
本プロジェクトに参加している物理学者のアレクサンドル・ヴィグノー(Alexandre Vignaud)氏は「イズールトを使えば、大脳皮質に栄養を送る微小な血管や、これまでほとんど見えなかった小脳の細部まで見ることができる」 と話します。
また同プロジェクトの科学ディレクターであるニコラス・ブーラン(Nicolas Boulant)氏は「11.7テスラの磁力を利用すれば、例えば本を読んだり暗算をするときに脳がどんな動きをしているかなど、脳の構造と認知機能の関係もより鮮明に調べることができる」といいます。
同チームは2021年に初めてイズールトを実験的に使用しましたが、そのときのスキャン対象は「カボチャ」でした。
しかし最近になって保健当局から人体での利用許可が下りたため、ついに人を対象とした臨床試験が実施されました。
ではイズールトによるMRIスキャンでは、従来と比べてどれほど鮮明な画像が得られたのでしょうか?
研究チームはここ数カ月間で約20人の健康なボランティアを対象にイズールトを用いた脳活動のスキャンを実施。
その結果、これまでに到達したことのないレベルでの鮮明な脳画像が得られました。
こちらがその画像で、左から3テスラ・7テスラのMRI、そして11.7テスラのイズールトを使った脳画像で、スキャン時間はどれも4分間です。
イズールトで撮影した脳画像は、一般に使用されている3テスラのものに比べて遙かに鮮明度が増していることがわかります。
研究者によると、3テスラでイズールトと同じ精度の画像を得ようと思えば、患者を数時間はMRIの中に閉じ込めておかなければならないという。
しかしイズールトであれば、わずか数分でかつてない解像度での脳画像が得られ、病気の検出や治療が大幅に向上すると期待できます。
これはMRIのような圧迫感のある閉所を苦手とする患者さんには嬉しい進歩です。
研究者らはこれと別に、パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患、うつ病や統合失調症などの精神疾患といった、いまだにメカニズムがよく分かっていない病気の解明にも役立つと考えています。
例えば、アルツハイマー病には脳の特定の領域である「海馬」が関与しているとされますが、具体的にどのように影響を及ぼしているのかは定かでありません。
そこでアルツハイマー患者の海馬をイズールトで調べることで、健常者とどのような動きの違いがあるかを見つけられると期待できます。
CEAの研究者であるアン=イザベル・エチエンヴル(Anne-Isabelle Etienvre)氏は「治療の難しい疾患を詳しく理解することができれば、早期の発見とより効果的な治療が行えるようになるでしょう」と述べました。
ただ、人体での安全性の確認や品質の改善をする必要があるため、実際の患者に使用されるまでにはあと数年かかるといいます。
チームは今後数カ月のうちに新たなボランティアを募って、イズールトを用いた脳スキャンを実施する予定です。
元論文
World’s most powerful MRI scans first images of human brain
https://medicalxpress.com/news/2024-04-world-powerful-mri-scans-images.html#google_vignette
World’s most powerful MRI machine captures first stunning brain scans
https://newatlas.com/medical/powerful-mri-brain-scans-iseult/
A world premiere: the living brain imaged with unrivaled clarity thanks to the world’s most powerful MRI machine
https://www.cea.fr/english/Pages/News/world-premiere-living-brain-imaged-with-unrivaled-clarity-thanks-to-world-most-powerful-MRI-machine.aspx
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。