- 週間ランキング
その過程で生じる多くの端材は、リサイクルされることもありますが、往々にしてゴミとなります。
環境やコストを考えたときに無駄が多いのです。
それでも木材には多くのメリットがあります。軽くて丈夫なだけでなく、加工が簡単です。
また優れた断熱性や調温機能、柔らかで温かみのある感触や香りも魅力的です。
そのため、もし木材のメリットを残したまま、自在な形に加工可能な材料を作る事が出来たとしたらこれはかなり有用な技術になります。
今回、ラーマン氏ら研究チームは、新たな3Dプリント技術を開発することで、木材と3Dプリントの「良いとこ取り」に成功しました。
3Dプリント技術では、インクを層のように重ねていくことで目的の形を作ります。
大きな材料を切ったり削ったりしないため、造形プロセスで無駄な材料が出ず、望む形状を作りやすいメリットがあります。
そこで研究チームは、木に由来する天然成分だけを用いた3Dプリント用の粘性インクを開発することにしました。
この粘性インクは、水、セルロースナノファイバー、セルロースナノクリスタル、リグニンで構成されています。
セルロースは、植物細胞の細胞壁や繊維の主成分であり、人類が摂取する食物繊維の多くもセルロースです。
そしてセルロースナノファイバーとは、セルロースをナノサイズにまでほぐして微細化した素材であり、セルロースナノクリスタルは、セルロースのナノサイズの結晶です。
またリグニンもセルロースと同じく植物細胞の細胞壁の主成分であり、木材の20~35%を占めています。
このリグニンはセルロースと結合して植物体を強固にするのです。
しかも、これらセルロースとリグニンは、林業、建設業で生じる木材の端材や廃材から採取できます。
天然成分のみで構成された粘性インクは、一般的な3Dプリントと同じく、目的の形を作るために重ねられていきます。
この時、一般的な3Dプリントでは、溶解した材料がノズルから押し出され、冷えることで硬化します。
しかし今回の新しい技術では、焼結プロセス(粉末の集合体を、融点以下の温度で加熱すると、粉末が固まって綿密な物体になる現象)を用います。
プリントされたオブジェクトを-85℃で48時間凍結乾燥させ、その後180℃で20~30分加熱するのです。
この加熱ステップにより、リグニンが分子の接着剤に変換され、セルロースナノファイバーとセルロースナノクリスタルを結合させるのです。
これにより、天然成分だけでも様々な形状のアイテムを作ることができます。
そして研究チームは新しい3Dプリント技術で作成した木材アイテムを分析し、天然の木材と比較しました。
その結果、3Dプリントされた木材アイテムは、見た目や質感だけでなく、内部構造、熱安定性、香り、強度も天然の木材と似ていることが分かりました。
また圧縮強度と曲げ強度に関しては、研究の基準として準備された天然のバルサ材よりも強いことが分かりました。
しかも、プリントされたアイテムは、廃棄した後に生分解するというメリットもあります。
実験で作成されたオブジェクトは小さなものばかりですが、この研究を発展させていくなら、天然素材から無駄を出さずに、直接木造建築物を作ることができるかもしれません。
ラーマン氏は、「これは持続可能な3Dプリント木造建築において、新時代の到来を告げるものだ」と語っています。
とはいえ、作成プロセスの「冷凍乾燥」「加熱」のステップでは大量のエネルギーが必要であり、研究チームは代替手段を模索しているようです。
参考文献
Rice researchers develop 3D-printed wood from its own natural components
https://news.rice.edu/news/2024/rice-researchers-develop-3d-printed-wood-its-own-natural-components
In a world-first, wooden items get 3D-printed out of wood-only ingredients
https://newatlas.com/3d-printing/wooden-items-3d-printed-wood-ingredients/
元論文
Three-dimensional printing of wood
https://doi.org/10.1126/sciadv.adk3250
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。