赤ちゃんを抱いたとき、なにか甘い香りがすると感じたことはないでしょうか?

これはベビーパウダーなどを付けていなくても感じるため、何らかの香料の匂いではなく赤ちゃんが持つ汗などの体臭です。

しかし成長すると人の汗は甘いにおいどころか、不快な臭いを発するようになってきます。運動部の部室がかなり臭いのは、汗の匂いが十代になるとかなりキツくなってくるためです。

最近、ドイツのフリードリヒ・アレクサンダー大学エアランゲン=ニュルンベルク(FAU)に所属するヘレン・M・ルース氏ら研究チームは、赤ちゃんと十代(ティーンエージャー)のにおいが異なる原因を突き止めました。

なんと十代の若者の汗には、若者特有のにおい成分が含まれており、「チーズ」「汗」「尿」「じゃこう」「白檀」のようなにおいがすると分かりました。

研究の詳細は、2024年3月21日付の学術誌『Communications Chemistry』に掲載されました。

目次

  • 乳児と十代の若者のにおい成分を分析
  • 十代の若者からは「チーズ」「尿」のようなにおいが発せられている

乳児と十代の若者のにおい成分を分析

赤ちゃんは「いいにおい」なのに、十代の若者から「不快なにおい」がするのはなぜ? / Credit:Canva

赤ちゃんが甘いにおいをしていることは、よく知られています。

この甘いにおいは、赤ちゃんが成長していく中でいつしか無くなっていきます。

そして、十代の思春期になる頃には、あまり好まれないにおいが生じるようになってきます。

運動後の男子高校生が使った更衣室に入った経験がある人は、その時の独特なにおいを思い出すかもしれませんね。

では、人の汗の匂いがたった十数年で、「いいにおい」から「嫌なにおい」へと変化するのはなぜでしょうか。

においの違いはよく知られていますが、どの成分がその違いを生じさせるのかは、ほとんど知られていません。

そこでルース氏ら研究チームは、実験でその点を明らかにしようとしました。

脇パッドを使い、におい成分を分析 / Credit:Canva

今回の研究では、0~3歳の乳児18人と14~18歳の十代の若者18人が集められ、それぞれ乳児グループと若者グループに分けられました。

そして被験者たちは、わきの下にパッドを入れた綿のTシャツを着て、一晩眠ります。

その後、パッドは「ガスクロマトグラフィー」を用いて、人間の嗅覚検査を組み合わせて、化学物質の検出とにおいの強さを評価しました。

(ガスクロマトグラフィーとは、気化しやすい化合物の成分を分離させて調べる機器分析の手法)

ちなみに被験者たちは、実験前の48時間で食事のコントロールと衛生管理がなされ、香料入りの洗剤の使用も控えるよう求められました。

十代の若者からは「チーズ」「尿」のようなにおいが発せられている

実験と分析の結果、研究チームは、赤ちゃんと若者の体臭を42種類の成分に分類することができました。

すると意外なことに、乳児グループと若者グループでは、体臭の化学組成がかなり似ていることが分かりました。

では、体臭に大きな違いを生じさせている物質はなんなのでしょうか?

赤ちゃんからは「スミレのようなにおい」がする / Credit:Canva

乳児グループ固有の成分としては、「α-イソメチルイオノン」と呼ばれる化合物がかなり高い濃度で検出されました。

この化合物は「スミレ」のような香りを発するため、赤ちゃんのいいにおいは、ここから来ている可能性があると分かりました。

一方、若者グループからは、様々な種類のカルボン酸が高濃度で検出されており、評価者たちは、これを「土臭い」「カビ臭い」「チーズ臭い」と表現しました。

また若者グループからは、乳児グループには含まれていない成分として、他にも2種類のステロイド化合物「5α-androst-16-en-3-one」「5α-androst-16-en-3α-ol」が検出されています。

これらの成分は人間の嗅覚からは、それぞれ前者が「汗」「尿」「じゃこう」のようなにおいだと表現され、後者は「じゃこう」「白檀(ビャクダン)」のようなにおいだと表現されたようです。

じゃこう」「白檀」と言われても、なんなのかピンとこない人も多いかもしれませんが、「じゃこう」はオスのジャコウジカ(シカに似た動物)の腹部にある腺から得られる分泌物を乾燥させたものです。

香料や生薬の一種として用いられ、「ムスク」とも呼ばれています。ジャコウジカは、このにおいでメスを引き寄せたり、縄張りを示したりするようです。元々のにおい自体は、アンモニア臭と獣臭が混ざった不快な臭いだと言われていますが、それを乾燥させることで嫌な臭いが薄れ、甘い香りへと変化するようです。

また「白檀」とは、インド原産の熱帯性常緑樹であり、甘くてエキゾチックな香りがすると言われており、線香にもよく使われます。

「じゃこう」と「白檀」だけであればそこまで不快なにおいではなさそうですが、若者特有のにおい物質は、そこに尿が加わったような独特のにおいになります。

十代の若者の「不快なにおい」成分が判明。 / Credit:Canva

研究チームは、「十代の若者に特有ないくつかの成分が、その体臭を不快にさせている」と考えています。

この結果は、十代の若者をターゲットにした消臭製品を生み出すのに役立つと考えられます。

悪臭のもとになる成分を明確にし、これを打ち消す製品が作れれば、何らかの香料で誤魔化すような方法を取らなくても不快な体臭を抑えられるようになるかもしれません。

しかしなぜ、成長とともに人の体臭は変化していくのでしょか?

これに関して、まだ仮説の段階ですがある科学者は、「乳児のいいにおいには、親の愛情と保護を促進させる働きがあり、十代の若者の嫌なにおいは、親との近親交配を防ぐのに役立つ可能性がある」と述べています。

その考えからすると、「なんでもかんでも消臭すればよい」わけではないと言えますね。

そのため研究チームは、乳児や若者のにおいが親に与える影響をより詳しく理解するために、さらなる研究が必要だと指摘しています。

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参考文献

Researchers explain the dissimilar smells of babies and teenagers
https://phys.org/news/2024-03-dissimilar-babies-teenagers.html

Why babies smell nice but teenagers smell like goats
https://newatlas.com/science/teenagers-goat-smell/

元論文

Body odor samples from infants and post-pubertal children differ in their volatile profiles
https://dx.doi.org/10.1038/s42004-024-01131-4

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 赤ちゃんは甘くて「いい匂い」なのに なぜ大人になると臭くなるのか?