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この心理的安全性を高く維持する上で、研究者たちは「謙虚なリーダーシップ」こそ必要とされているのではないかと考えます。
ここでいう「謙虚さ」とは、自らの能力の限界や過ちを正確に把握する意欲があり、他者の強みや主張を評価し、常に学びの姿勢を忘れないというリーダーシップのスタイルです。
このようなリーダーシップが示されると、従業員の仕事へのコミットメント、ポジティブな感情、および職場でのパフォーマンスが向上すると期待されます。
しかし従来の研究では、こうした「リーダーの謙虚さ」「心理的安全性」「プレゼンティーズム」の3つがどのように関係しているのかは調べられていませんでした。
そこで研究チームは今回、日本の複数企業を対象として、リーダーの謙虚さが従業員の心理的安全性、およびプレゼンティーズムにどう作用するかを調べてみました。
本調査では、日本国内にある11社の企業から463名の従業員をリクルートし、オンライン調査に参加してもらいました。
参加者は男性224名、女性238名で、平均年齢が35.67歳。
全員が日本人で、職種はIT関連から管理職、営業職、サービス業など多岐にわたります。
それぞれの参加者には、リーダーの謙虚さを9項目から評価するアンケート(Expressed Humility Scale:EHS)、従業員の心理的安全性を評価するアンケート(Psychological Safety Scale :PSS)、プレゼンティーイズムの程度を評価するアンケート(Single-Item Presenteeism Question :SPQ)の3つに回答してもらいました。
それらをまとめてデータ分析した結果、職場リーダーの謙虚さが高いほど、従業員の心理的安全性も高まり、それがプレゼンティーズムの減少につながっていることが明らかになったのです。
3つの関係性としては、リーダーの謙虚さがそのままプレゼンティーズムの低減につながるのではなく、間に心理的安全性の高まりを介することで、結果的にプレゼンティーズムも減少するというものでした。
単にリーダーが謙虚であるだけで職場のプレゼンティーズムが低下するわけではなく、そのような柔軟なリーダーの存在により醸成された職場のポジティブな雰囲気が、従業員の健康や生産性を向上させると考えられます。
従業員の心身の健康はそのまま会社全体の利益の向上にもつながるため、これは重要な指摘です。
研究主任の松尾朗子(まつお・あきこ)氏は、次のようにコメントしています。
「本研究は現代の多様化する組織のあり方や働き方に関するもので、健康経営はこれからの日本においてますます重要になっていきます。
本研究の結果は、従業員が最大限の力を発揮して仕事を遂行できるような職場環境を整える際の大きなヒントとなるでしょう」
ますます複雑でストレスフルな社会になりつつある今こそ、柔軟に従業員と対応できるリーダーが求められているのかもしれません。
参考文献
謙虚なリーダーのもとで心理的安全性が高まりメンバーが本領発揮しやすくなる
https://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/news/release/20240315.html
元論文
The mediating role of psychological safety on humble leadership and presenteeism in Japanese organizations
https://content.iospress.com/articles/work/wor230197
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。