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画像の点線が示すように、薩摩硫黄島と竹島が鬼界カルデラの北縁に相当し、カルデラ中央は海底にあります。
そしてこの鬼界カルデラを作るような火山噴火は、過去十数万年で複数回発生したと考えられています。
特に7300年前に発生した鬼界カルデラの巨大噴火は、「アカホヤ噴火」と呼ばれており、これが引き起こした火砕流は、海を渡って南九州の縄文文明に壊滅的な被害を与えました。
当時そこに住んでいた縄文人は、他の地域に逃げた一部の人々を除き、壊滅したと考えられています。
その後、この地域は1000年近く無人の地となったようで、新しく住み着いた縄文人は、以前の縄文人とはルーツが異なっています。
また、このアカホヤ噴火に伴って、大量の火山灰も噴出しました。
火山灰に覆われた面積は約200万km2、体積は約100km3にもなり、その証拠は火山灰でできた「アカホヤ」と呼ばれる地層から明らかになっています。
実際、九州南部の地下では、その地層の厚さが約1mにもなり、四国・中国地方で20cm以上、広くは東北地方や朝鮮半島南部にも分布しています。
このように、7300年前の鬼界カルデラの巨大噴火による影響は、陸地に溜まった「噴出物」を調査することで、推計されてきました。
しかしこれら噴出物は、陸地だけでなく、海中にも流入したはずです。
それでも、海中に流入したはずの噴出物がどの程度存在しているかはこれまで確かめられておらず、その規模や噴出物の運搬過程は分かっていませんでした。
そこで今回清水 賢氏ら研究チームは、海底に溜まった「噴火の証拠」を分析することにしました。
研究チームは、船を用いた探査航海にて、海底堆積物の層構造を可視化する「反射法地震探査」を行いました。
これは、低周波の音波(地震波)を発生させ、地下構造から反射する波を解析することにより、地下構造を可視化する探査方法です。
その結果、海底堆積物の最上層は、河川を起源とする堆積物とは異なっており、鬼界カルデラ周辺の海底が、火砕流を起源とする噴出物で覆われていると分かりました。
この噴出物は、4500km2以上の海底に広がっていました。
続いて、この層を採取し、その中に含まれた火山ガラス(マグマが急激に冷却され、非結晶のままガラス状に固化したもの)を化学分析しました。
その結果、この噴出物が7300年前に起きた「アカホヤ噴火」の火砕流を起源とすることも特定できました。
さらに、アカホヤ噴火の噴出物は、カルデラからの距離に対して指数関数的に層の厚さが減少しており、海底の凹凸を埋める様に堆積していることも分かりました。
このことは、アカホヤ噴火の火砕流が海中に突入したあと海水と混合し、希薄な密度流を形成したことを示唆しています。
この密度流は海中を40km以上にわたって移動しながら海底に堆積していったのです。
このように、「噴出物の海中でのふるまい」が明らかになったのは初めてのことです。
さらに、堆積物の正確な分布と厚さの変化から、7300年前のアカホヤ噴火がもたらした噴出物の量を高精度に見積もることができました。
海底に堆積した噴出物は71km3以上であり、日本に広く分布する火山灰と合わせると、その総量は、332~457 km3以上だと見積もることができました。
この噴出物の総量からすると、7300年前に発生した鬼界カルデラの「アカホヤ噴火」は、完新世(11700年前~現代。地質時代の区分で最も新しい時代)において世界最大の噴火だということになります。
今回の研究により、もっとも新しい地質時代における世界最大の火山噴火が、日本で生じていたことが分かりました。
そして原因となった鬼界カルデラの海底には、現在、巨大な溶岩ドームが確認されており、今後100年間で噴火が起こる可能性は1%だと言われています。
もし将来、アカホヤ噴火と同レベルの噴火が生じるなら、当時の縄文人と同じく、現代の日本人たちは壊滅的な影響を受けることでしょう。
今後研究チームは、こうした脅威をより正しく認識するため、鬼界カルデラにおける別の年代に生じた巨大噴火も分析していく予定です。
参考文献
海底を覆う大量の鬼界カルデラ巨大噴火の噴出物を発見
https://www.kobe-u.ac.jp/ja/news/article/20240222-21789/
元論文
Submarine pyroclastic deposits from 7.3 ka caldera-forming Kikai-Akahoya eruption
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S037702732400009X
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。