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直径約500mの小惑星ベンヌは、地球近傍小惑星(地球に接近する軌道を持つ小惑星)の1つであり、「将来地球に衝突する可能性がある」として注目されてきました。
そんなベンヌには、探査機「オサイリス・レックス(もしくはオシリス・レックス)」が送られていました。
そして2023年9月24日には、オサイリス・レックスが回収したベンヌの表面サンプルが地球に到着し、その分析が開始されました。
科学者たちは、この分析により、ベンヌから生命の起源に関する手がかりや、小惑星から天然資源を抽出するための手がかりを発見できないか期待しています。
また、ベンヌの軌道を理解することで、「地球に衝突しそうな小惑星を逸らす方法」が発見できる可能性もあります。
そのため特別な期待を寄せて研究されている小惑星ベンヌですが、その表面サンプルの分析からは、現在どんなことが分かっているのでしょうか。
今回紹介するのは、アメリカのアリゾナ大学(The University of Arizona)の科学者であるダンテ・ラウレッタ氏らの研究チームによる分析報告です。
彼らはベンヌのサンプルを200mg受け取っており、ここには「0.5mmを超える粒子が1000個以上、1cmを超える粒子が28個、最大の粒子は3.5cm含まれていた」と報告しています。
その粒子からは、ベンヌに関するどんな情報が見つかったのでしょうか?
分析の結果、ベンヌのサンプルには、粘土などの鉱物に閉じ込められた大量の水分が含まれていると判明。
また炭素、窒素、硫黄、リンも豊富に含まれていました。
さらにラウレッタ氏によると、小惑星ベンヌのサンプルは、隕石のサンプルと比べて貴重なのだとか。
地球に落ちてくる隕石のほとんどは小惑星のかけらです。
しかしそれら隕石は、地球大気圏を経て激しい落下を経験した破片であるため、そのサンプルから隕石の起源を特定することは容易ではありません。
一方、今回分析が進んでいる小惑星ベンヌのサンプルには、これまでの隕石サンプルには見られなかった物質が豊富に存在していることが分かっており、その起源を探るための「最高の手がかり」だと言えます。
そして、それら特異な物質の中でも、ラウレッタ氏が特に注目しているのが、「リン酸塩」です。
リンを含むリン酸塩は、DNAやRNA、細胞膜など生命を形作るものにとって必要不可欠な物質であり、これまでにも「地球以外の海を持つ可能性のある天体」で見つかっています。
例えば土星の衛星エンケラドゥスには内部海が存在していると考えられており、探査機によってリン酸塩が検出されてきました。
そのため、小惑星ベンヌのサンプルからリン酸塩が発見されたという事実は、非常に興味深いものです。
ラウレッタ氏は、「小惑星ベンヌは、古代の海洋世界の断片である可能性があります」とコメント。
地球に接近する小惑星ベンヌが、かつては「海をもつ天体」の一部だったかもしれないというのです。
もちろん、このアイデアは、現時点での単なる可能性の1つに過ぎず、さらなる分析と研究により、真実を明らかにしていく必要があるでしょう。
また小惑星ベンヌは、おそらく火星と木星の間の小惑星帯で形成されたと考えられています。
そのためベンヌは、それらの小惑星やそこからもたらされる隕石の「点と点を結ぶ存在」となる可能性もあります。
詳しい分析結果は、2024年3月にアメリカのテキサス州で開催される「第55回月惑星科学会議(Lunar and Planetary Science Conference)」で発表されます。
「地球に衝突するしれない」と私たちを賑わせてきたベンヌは、今後一層注目の的となりそうです。
参考文献
1st look at asteroid Bennu samples suggests space rock may even be ‘a fragment of an ancient ocean world’
https://www.space.com/asteroid-bennu-osiris-rex-samples-1st-look-surprises
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。