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しかし、この5回目のミッションを終える前に宇宙滞在の最長記録を破る瞬間はやってきました。
これ以前の世界記録は、同じロスコスモスの宇宙飛行士であるゲンナジー・パダルカ(Gennady Padalka)氏が打ち立てた累計878日11時間29分48秒です。
パダルカ氏は1998年から2015年までに5回のISSミッションを行っています。
コノネンコ氏は彼の記録を今月2月4日の時点で見事に塗り替えました。
また、このまま行けば6月5日には人類未到の1000日越えを達成し、予定通りに9月まで滞在できれば1110日まで記録を伸ばす見込みです。
一方で、コノネンコ氏はロシアの通信社TASSの取材に対し、「私は自分の好きなことをするために宇宙に行っているのであって、決して記録を作るためではありません」と回答。
その上で「私は自らのすべての功績に誇りを持っていますが、また人類の宇宙滞在の総期間の記録がロシアの飛行士たちによって保持されていることをより誇りに思っている」と続けました。
しかし地球の重力下で育った人間にとって、宇宙空間は体への負担が大きな場所です。
コノネンコ氏は大丈夫なのでしょうか?
コノネンコ氏の記録は、宇宙滞在の負担の大きさゆえに偉業と呼ぶにふさわしいものです。
ISSでの平均滞在期間は1回のミッションにつき約6カ月で、その間、体には物理的な負荷がかかり続けます。
最も注目すべきは「骨密度の減少」と「筋萎縮」です。
これまでの研究で、宇宙にいる人間は1カ月滞在するごとに、下肢や脊椎などの重要な部位の骨密度が1〜1.5%程度減少することが分かっています。
ISSにはトレーニングルームがあり、クルーは1日2時間ほどの運動を行っていますが、それでも筋肉の減少は避けられないという。
また6カ月の宇宙滞在の悪影響から完全に回復するには数年かかり、その後も骨折リスクの上昇、勃起障害の増加、宇宙空間の放射線によるがんリスクの上昇など、様々な健康上の問題が懸念されます。
それゆえに、何度もISSミッションを行っているコノネンコ氏は超人と言えるのです。
同氏は取材に対し、ISSでは定期的に運動を続けており、身体的な健康面に問題はないと話しています。
心配なのは体だけではありません。
ISSでは常時6名のクルーのみが滞在しており、狭い空間の中で限られた仲間とだけ長い時間を過ごす必要があります。
愛する家族や友人と離れ離れの生活は心理面で多大な負荷をかけるため、精神疾患も起きやすいのです。
コノネンコ氏は取材に対し「ISSで不安や孤立は感じていない」と述べていますが、地球に戻ってきたときに毎回、自分がどれだけの時間を失ってきたかに気づくと話しています。
「家に帰って初めて、私がいない何百日もの間、子供たちは父親なしで大きく成長していることに気づくのです。この時間は二度と私の元には戻ってきません」
このようにISSでの滞在には、強い信念と不屈の精神が必要なのです。
ISSは1998年に最初のモジュールが打ち上げられて以来、NASA(アメリカ航空宇宙局)、ロスコスモス、JAXA(宇宙航空研究開発機構)、ESA(欧州宇宙機関)、CSA(カナダ宇宙庁)の5つの国によって管理されてきました。
しかし現在、ロシアとアメリカの間で緊張が続いており、2024年末までにロシアはISSから撤退し、独自の宇宙ステーションを建設する意思をすでに発表しています。
また、ISS自体も任期の終わりが近づいています。
現段階では2030年までISSの運用が続けられ、その後は新しい宇宙ステーションが任務を引き継ぐだろうとNASAが発表しています。
そのため、ISSでの滞在記録の更新はコノネンコ氏で最後となるかもしれません。
参考文献
Сosmonaut Oleg Kononenko beats world record for most time spent in space
https://tass.com/science/1741569
Russian Cosmonaut Smashes World Record For Most Time in Space
https://www.sciencealert.com/russian-cosmonaut-smashes-world-record-for-most-time-in-space
Cosmonaut Oleg Kononenko sets world record for most time spent in space
https://www.theguardian.com/science/2024/feb/04/cosmonaut-oleg-kononenko-sets-world-record-for-most-time-spent-in-space
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。