- 週間ランキング
勉強にせよデスクワークにせよ、何時間も立て続けに作業をしていると、どうしても脳が疲れて注意力が散漫になってきます。
研究チームは、こうした学習時の集中力が落ちてきたタイミングで視覚や聴覚を通じた刺激により、集中力を途切れさせることなく、学習を効率的に行えるのではないかと仮定し、実験を行いました。
実験ではまず、EEG(脳波)信号を記録できるInteraXon Inc.製のヘッドバンドをボランティアに装着してもらいます。
EEGは、頭皮上の脳の自発的な電気活動を記録することで得られる信号パターンで、非侵襲性の安全な電極を頭皮に貼付して取得されます。
ボランティアにはその状態で、情報処理能力を測定することができるPASAT(PacedAuditory Serial Additions Task Clinical Assessment for Attention)テストを受けてもらいました。
PASATテストとは、一定のリズムで読み上げられる1桁の数を聞き、前後の数を加算した数を順次回答するものです。
やってみると意外に脳力を使うことが実感できます。
PASATテストは前後半それぞれ2分の計4分間行い、その後半の2分間でボランティアに対し様々な視聴覚刺激を与えました。
チームは、このときのEEG(脳波)とPASATテストの正答率を前後半で比較し、それぞれの視聴覚刺激によって集中力がどのように変化するかを調査しています。
具体的には、何の刺激もない通常の環境下で2分間のPASATテストを行った後、休憩を入れずに環境光(赤・青・緑)あるいは背景音(ホワイトノイズ・川のせせらぎ・クラシック音楽)、無刺激のいずれかの状態で2分間のPASATテストを行います。
ホワイトノイズとは、様々な周波数の音を同じ強さで混ぜて再生したノイズ(雑音)の一種で、強い雨のような「シャー」という音が特徴です。
こちらがホワイトノイズのサンプルになります。(※ 音量にご注意ください)
そしてデータ分析の結果、赤・青・緑の環境音やホワイトノイズおよびクラシック音楽では、テスト前後の正答率が落ちるか、ほぼ変わらないことが分かりました。
その一方で、川のせせらぎを聞いたときにのみ、テストの正答率が向上していることが判明したのです。
加えて、川のせせらぎを聞いたボランティアのEEG(脳波)を見ると、集中力の向上を表す「ガンマ波(γ波)」が上昇していることも確認されました。
ガンマ波は脳の認知機能を活性化させる脳波パターンとして知られ、集中力が高まっているときや深い瞑想状態にあるときに発生することが分かっています。
つまり、脳が疲れてきたタイミングで川のせせらぎを聞くとガンマ波が発生し、集中力を高く維持できると考えられるのです。
研究者は「今回の実験結果を応用することで、個人の勉強だけではなく、授業の最適化、日常の作業の効率向上につながることも期待できる」と述べています。
また集中力の維持を個人の努力に委ねるのではなく、状況に合わせて自動的に「川のせせらぎ音」を流すなど、集中力を維持・向上できるようなサービスの展開もチームは視野に入れています。
今回の研究は非常に小規模なものですが、無音やクラシック音楽よりも自然の環境音である川のせせらぎの方が集中力を向上させるというのは、直感的な予想に反した興味深い結果と言えるでしょう。
その一方で、人と環境音の関係はまだまだ十分に把握されておらず、川のせせらぎ以外にも同様の効果を持つ音はあるのではないかと予想されます。
例えば、浜辺に打ち寄せる波の音や、風にゆれる木の葉のざわめき、あるいは小鳥のさえずりや虫の声、雨音など環境音として調べるべき候補は数多く考えられます。
今回の研究では、これらの違いが検証されていませんが、自然音はYouTubeでも無料公開されているため、どれを聞くと最も集中力が高まるのか、自分の好みに合わせて試してみるといいかもしれません。
無音で作業するのは何か物足りないけれど、音楽を流すと集中できないという場合に、有効な選択肢になるかもしれません。
参考文献
学習時、特定の音により聴覚を刺激することで集中力向上の可能性を発見(PDF)
https://www.shibaura-it.ac.jp/assets/PressRelease_1.pdf
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。