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アストロラーベとは、天体の高度や方位を、計算ではなく、視覚的な操作で知るための道具です。
スタンダードなアストロラーベは直径15cmの真鍮製です。
もちろん様々なタイプが存在しますが、そのほとんどが容易に持ち運びできるサイズであり、薄い円盤のような形をしています。
このアストロラーベは、現在の「星座早見盤」のルーツでもあると言われているようです。
そのためいくらか使い方も似ており、円盤やパーツを回転させながらメモリを合わせることで、正確な天体の位置や現在の経度を知ることができます。
アストロラーベの開発者は不明です。
紀元前2世紀に天文学者によって開発されたなど、諸説ありますが、確かなのは、この機器が古代から存在してきたということです。
例えば、4世紀ごろのアレクサンドリアには既に存在しており、8世紀ごろにはイスラム圏に伝わって大きく発展したと言われています。
イスラム圏の各地に伝わったアストロラーベは、それぞれの地で多くの機能が追加され、より複雑なものとなりました。
10世紀の天文学者が、「アストロラーベの様々な機能には1000の応用例がある」と推測したほどです。
そして12世紀には多くの天文学の知識と共にヨーロッパにもたらされます。
15世紀から16世紀のヨーロッパではアストロラーベが広く使用されており、天文学教育の基本ツールとして一般的なものになりました。
コンピュータのない当時に、自分で一から計算せずに、太陽や星の位置、航海中の現在位置や時刻などを知ることができるため、特に天文学者や占星術者、航海士たちから重宝されたようです。
そんな中で、アストロラーベには美しい装飾が施されるようにもなり、工芸品としても人々の目を引くようになっていきます。
しかし、17世紀の「振り子時計」、18世紀の「六分儀」などの発明により、アストロラーベは徐々に使用されなくなっていきます。
ついには、アストロラーベが製造されることもなくなりました。
とはいえ、現代まで時間が進むと、逆にアストロラーベの価値が高まることになりました。
「古代のアナログ計算機」という貴重な収集品へと変化したのです。
オークションなどでは、アストロラーベ1つが50万ドル(約7000万円)で取引されることもあるのだとか。
次に、アストロラーベの構造を見てみましょう。
アストロラーベは複数のパーツから成り立っています。
まず「メーター(Mater)」と呼ばれる中空の円盤があります。
これはアストロラーベの土台のようなもので、メーターの縁の外周には、時刻メモリや角度メモリが刻まれています。
そしてメーターの内側には、「ティンパン(Tympan)」と呼ばれる平らな板が入っており、高度・方位を表す線が等間隔で刻まれています。
通常、1つのアストロラーベには緯度別に複数のティンパンが備わっており、現在地に対応した緯度のティンパンを入れ替えて用います。
またメーターとティンパンの上には、「リート(Rete)」と呼ばれる星の位置を示す回転盤が備わっています。
このリートは透かし彫りで作られており、複数の針が美しい模様を作りながら縁から伸びています。
そしてこれらの針の先が示すのは、主だった恒星の位置です。
リートを、星座早見盤のように回転させて使用することで、現在の星空を把握することができるのです。
ちなみに、どの恒星を含めるかは特に決まっておらず、恒星(針)の数も10~100個以上と幅があります。
アストロラーベを構成するパーツの中でも、特にリートは目立つ存在であり、デザイン性を重視した美しいリートが数多く存在しているようです。
(リートの上には、赤緯の目盛りが付いた時計の針のようなパーツ「ルーラ」が付属することもあります)
最近では、このリートを分析することで、アストロラーベの製造年代を知ることもできるようです。
エマニュエル・ダヴースト氏は、フランスの都市トゥールーズにあるミディ=ピレネー天文台(OMP)に所属する天文学者です。
最近彼は、同じくトゥールーズにあるポール・デュピュイ美術館に保管されたアストロラーベを分析しました。
彼が特に着目したのは、アストロラーベのパーツの1つであり、恒星の位置を示す「リート」です。
このリートには、34個の針があり、同じ数だけの恒星の位置を示しています。
そしてなんと彼は、リートの分析により、このアストロラーベがいつ製作されたのかを明らかにすることができました。
製造年が彫られているわけでもないのに、どうしてそのようなことが可能なのでしょうか?
地球の自転軸は常に同じ方向を向いているわけではなく、下図のように約23.4°傾いています。
これを歳差運動と言いますが、この運動により、「春分点(すべての恒星の位置の基準となる点)」の位置は定期的に変化します。
また恒星自体も、固有運動と呼ばれる変化により、非常にゆっくりとその位置(天体を観測した際の座標値)を変えています。
つまり、時間の経過により恒星の座標は変化しており、この違いが特定のアストロラーベがいつ製作されたかを知るカギとなるようです。
今回、ダヴースト氏は、1400年から1700年の間の恒星の座標を50年ごとに算出し、ポール・デュピュイ美術館にあるアストロラーベの34点の座標と比較しました。
その結果、このアストロラーベが作られたのは1550年である可能性が高いと分かりました。
このように、天文学を用いた歴史調査が可能だという点も、アストロラーベが持つ魅力の1つなのです。
もし、古代のナビゲーション機器である「アストロラーベ」を目にする機会があるなら、ぜひ、その精巧さやデザインの美しさ、そして天文学における歴史の深さを感じ取ってみてください。
参考文献
The Positions of Stars on an Ancient Navigation Device Tell us When it was Made
https://www.universetoday.com/164769/the-positions-of-stars-on-an-ancient-navigation-device-tell-us-when-it-was-made/
Astrolabe
https://en.wikipedia.org/wiki/Astrolabe
元論文
Dating of a Latin astrolabe
https://arxiv.org/abs/2311.17966
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部