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ナルシシズムは、自己の過大評価、他者への共感の欠如、自分は唯一無二で特別扱いを受けるに値すると考えるナルシストの性格特性です。
この特性は、1979年に開発された「自己愛性パーソナリティ検査」などの尺度で確認できます。極めてまれに「病的ナルシスト」と診断される人もいますが、ほとんどの人は健康的な性格の範囲に位置するそうです。
ただ、健康でも、検査である程度高い数値を記録する人がおり、そうした人はとくに初対面で「非常に魅力的」だと見なされることがあります。
たとえば、オーストリアで行われた研究(2016)では、ナルシシズムのある男性が、短期および長期の関係で「魅力的」と評価されることが示されました。
この研究は、オンラインで募集された18〜32歳の90人(女性46人、男性44人)が参加したものです。参加者は、他の参加者と短時間のデートの後、相手の魅力や性格、そして 「一晩だけの関係ならこの人がいい 」などの項目について評価しました。
結果、ナルシシズム特性を持つ男性は、より多くの女性から連絡先を得ることができ、また高い評価を受けることが確認されたのです。
「悪い男」がもたらす不安と混沌に引き寄せられる人もいます。
悪い男は、断続的に喜びと苦悩を与え、これが複雑な関係を生むことがあります。
感情的な混乱に引き寄せられる理由はさまざまです。幼い頃の不安定な愛情、社会からの期待、過去の恋愛経験は、人間関係の形成において特定のパターンを生み出すことがあり、「外傷的絆(Traumatic bonding)」の文脈で研究されています。
外傷的絆は、虐待と報酬のサイクルが繰り返されることで形成される、被虐待者と加害者の間にある強い感情的な結びつきのことです。
たとえば「無視され続けたのに、ある日突然態度が豹変し、愛を囁かれる」などの「予測不可能な報酬と罰」は、複雑で強力な感情的結びつきを生むとされます。
2022年にナイジェリアで行われた研究は、「共感」がパートナーによる暴力と外傷的絆の関係に媒介的役割を果たす可能性が示されました。
研究では、家庭内性暴力を扱う施設の訪問者345名の女性(18~61歳)を対象に、外傷的絆の形成に関連する被害者の特性を統計的に分析されました。
結果、共感がパートナーに対する暴力を外傷的絆に変換し、強化する可能性が示されました。被害者が高い共感を示せば示すほど、不健全な関係が強化される傾向も高くなるということです。
共感力の高い人は、「悪い男」と複雑で強い結びつきを形成しやすい可能性があるのです。これはいわゆる恋人に振り回されたいという願望を持つ人が、特に注意すべき傾向かもしれません。
「悪い男」の冷淡さや人を操る能力は、進化的な観点から生殖行動に有利にはたらく可能性があるようです。
セルビアの研究者らは、刑事施設で181人の男性受刑者を調査し、サイコパステストで高得点を取った受刑者ほど多くの子供を持つ傾向があることを発見しました(2017年に論文として発表)。
研究者らは、「人を操る能力や欺瞞などのサイコパシー特性(Psychopathy)が、特定の状況下では、進化的に有利な行動戦略となる可能性がある」と指摘しています。
研究者の発言は、サイコパシーの特性が繁殖において有利にはたらく可能性を示した一方で、「サイコパシーの感情的な無愛想さと冷淡さが生殖の成功と正の関係にあるのは、過酷な環境においてのみ」とも付け加えています。
特定の状況でなければ、サイコパシーの力は、生殖行動にはつながらないのかもしれません。
今回ご紹介した3つの研究は、「悪い男」が相手を惹きつけることが示されたものではありますが、どれも「短期的」で「限定的な条件下」というただし書きがつくものです。
表面的な魅力や操作されること、そして複雑な関係から受ける苦しみは、長期的な関係には適していません。
悪い男には抗いがたい魅力があります。しかし、「良い男」を選んで落ち着く女性は少なくありません。ちなみに、米国の別の研究(2005年)では、精神的サポートを優先する女性は、コミットしてくれる良心的なパートナーを選ぶ傾向があることを、最後に付け加えておきます。
参考文献
Speed dating study finds narcissists and psychopaths get more dates
https://www.psypost.org/2016/06/speed-dating-study-finds-narcissists-psychopaths-get-dates-dark-triad-43452
元論文
How Alluring Are Dark Personalities? the Dark Triad and Attractiveness in Speed Dating –Emanuel Jauk, Aljoscha C. Neubauer, Thomas Mairunteregger, Stephanie Pemp, Katharina P. Sieber, John F. Rauthmann, 2016
https://journals.sagepub.com/doi/10.1002/per.2040
Traumatic bonding in victims of intimate partner violence is intensified via empathy –James Edem Effiong, Peace N. Ibeagha, Steven Kator Iorfa, 2022
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/02654075221106237
Interpersonal and Affective Psychopathy Traits Can Enhance Human Fitness | Evolutionary Psychological Science
https://link.springer.com/article/10.1007/s40806-017-0097-5
ライター
鶴屋蛙芽: (つるやかめ)大学院では組織行動論を専攻しました。心理学、動物、脳科学、そして生活に関することを科学的に解き明かしていく学問に、広く興味を持っています。情報を楽しく、わかりやすく、正確に伝えます。趣味は外国語学習、編み物、ヨガ、お散歩。犬が好き。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。