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この研究では米国人在住の成人401人に対し、様々な声の音声アシスタント(VA)が割り振られました。
被験者は事前に自分の性格に関するアンケートに返答しています。
実験では割り振られたVAから簡単な自己紹介を聞いた後、VAの声についての印象や、VAの仕事ぶりに対する評価のアンケートが行われました。
その結果、事前アンケートで尋ねられた自分の性格と、VAの声から受ける性格の印象の一致度が高いほど、VAの仕事ぶりを高く評価する傾向にあったのです。
つまり被験者が「自分と近い性質を持っている」と感じるかどうかが重要になります。
実験では全体を通して内向的な声よりも外交的な声の方が評価が高くなりました。
外交的な声とは少し早口かつ低めの音程で大きくはっきりした発声を指します。
しかし、事前の性格アンケートで内向的な性格を示した人は外交的な声でも高く評価することはありませんでした。
つまりここからも「自分の似た性格の声」を好む傾向が見て取れます。
また、この研究ではVAの仕事の評価だけでなく、信頼性の評価についても調査が行われました。
声が変わればVAへの信用が変化するか調べるために、ユニークな実験手法がとられました。
実験が行われていた当時誰もが話題にしていた「新型コロナウイルス」に関してVAと話した音声を流し、被験者がその話をどのように受け止めたか調査したのです。
この実験からは「利用者が好むVAの声質」について興味深い結果が得られました。
実験前、被験者のうち27%がコロナワクチンを打っていませんでしたが、自分に似た性質の声を使ったVAによる会話によって、そのうちの38%がワクチンに対する考えを変えたのです。
研究グループはこの結果に対し「自分と似た性質の声だとVAの話をより注意深く聞くようになる」可能性を示唆しています。
例えば、人は自分に似た性質を持つ友人やインフルエンサーなどを信頼し、その人の話は注意深く聞く傾向にあります。
このような現象がVAの音声に対しても起こっているのではないかと考えたのです。
まだこれは小規模な研究結果に過ぎませんが、VAの音声への評価が人によって異なり、話す内容の信頼性にも影響するという今回の結果は、多くのVAの音声が1つという現状を変えるきっかけになるかもしれません。
ここまで紹介した研究では「自分と似たタイプの声」だと評価が高くなりましたが、概ね人は録音された自分の声を気持ち悪いと思う傾向にあります。
つまり「自分と似たタイプの声」と「自分の声」は異なるということでしょう。
普段聞いてる「自分の声」は頭蓋骨などに響く骨伝導なども含まれたものですが、録音音声など客観的な声は音のみであるため、主観的な「自分の声」と異なるのだそうです。
この乖離が違和感につながり、苦手に感じる人が多いと言われています。
今回実験で得られた「自分に似たタイプの声」は、自分の性格とVAの声を別々に評価し、VAに対する印象と、事前申告した自分の性格との一致度が高いものを示します。
そのように考えると、この「自分に似たタイプの声」は主観の自分の声に近い声なのではないでしょうか。
もし持ち主の声から逆算して主観の声が割り出すことができたら、それぞれの使用者にマッチングした評価の高いVAが生まれるかもしれませんね。
参考文献
What if Alexa or Siri sounded more like you? Study says you’ll like it better
https://www.sciencedaily.com/releases/2023/11/231128132336.htm
元論文
Busting the one-voice-fits-all myth: Effects of similarity and customization of voice-assistant personality
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1071581923001350?via%3Dihub
ライター
いわさきはるか: 生き物大好きな理系ライター。文鳥、ウズラ、熱帯魚などたくさんの生き物に囲まれて幼少期を過ごし、大学時代はウサギを飼育。大学院までごはんの研究をしていた食いしん坊です。3人の子供と猫に囲まれながら、生き物・教育・料理などについて執筆中。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。