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実験では、それぞれの橋を1人で渡ってきた男性に実験者の女性が声をかけ、簡単な心理テストに協力してもらいました。
その後、「もし実験の詳細な結果を知りたいのであれば、電話してきてください」と言い、参加者の男性に電話番号が書かれたメモを渡しています。
もしも、カピラノ吊り橋の揺れが引き起こしたドキドキが、実験者の女性に対するものであると誤って解釈されたのであれば、男性の参加者はもう一度女性と話をしたいと思い、電話をかけることが予測できます。
実験の結果、カピラノ吊り橋で電話番号をもらった男性の半数(約50%)が実験者の女性に後日連絡してきた一方で、低いコンクリート製の橋で電話番号をもらった男性は約12%しか連絡してきませんでした。
この結果は、私たちは身体的な反応が生じた際に、それがどのような感情によって起きたものなのか、必ずしも正確に判断できないことを示唆しています。
こうした「吊り橋効果」の背景には、社会心理学者のスタンリー・シャクター(Stanley Schachter)とジェローム・シンガー(Jerome Singer)によって提唱された情動二要因論があると言われています。
情動二要因論とは、生理的反応(発汗や血圧上昇)そのものが感情を決めるのではなく、その生理的反応が何によって引き起こされたのかの解釈によって感情の種類が決まるとする考えです。
一般的に、私たちは魅力的な異性を見たとき(出来事)、その相手に恋愛感情を抱くと(感情)、相手と話している時にドキドキする(生理反応)と考えているはずです。つまり私たちのドキドキという生理反応は、私たちの感情によって生じていると考えているはずです。
一方で、実験の結果は逆に、吊り橋が揺れているせいで(出来事)ドキドキすると(生理反応)、「なぜドキドキするのか?これは恋かもしれない」という解釈が生まれ、それによって目の前の相手に恋愛感情が生じる(感情)ことを示しているのです。
このように自分の生理的反応を誤った感情と結びつけて解釈することは、覚醒の誤帰属と呼ばれています。
ここまではほとんどの人が知っている有名な話だと思います。
しかし実はその数年後に、「吊り橋効果」は美人以外では効果がないという可能性が報告した研究が発表されているのです。
吊り橋効果の範囲については、1981年に「Journal of Personality and Social Psychology」に投稿された、米国メリーランド大学のグレゴリー・ホワイト氏らが行った研究で検証されています。
この実験には男性26名が参加しました。
参加者はメディカルチェックを終えた後、15秒間走る人(低覚醒条件:あまりドキドキしていない)と2分間走る人(高覚醒条件:ドキドキしている)の、2つのグループに分け、1人の女性が自己紹介をする動画を1つ見て、魅力度の評価してもらいました。
この自己紹介動画は同じ女性が服や化粧を変え、魅力度が高い場合(高魅力)と、魅力度が低い場合(低魅力)の2つのパターンを用いています。
実験の結果、「高魅力」の女性は、ドキドキしていない場合(低覚醒)と比較して、ドキドキしているとき(高覚醒)の方が魅力を高く評価されたのに対し、「低魅力」の女性はドキドキしているときの方(高覚醒)が魅力度が低くなってしまったのです。
この結果は、「ドキドキ」を恋愛感情であると勘違いするためには、そもそも相手が恋愛対象にならなければ意味がないということを示しています。
もしそうでなければ、走ったあとの疲れなどが影響して、逆に「なんだこいつ」と魅力を低く評価してしまう可能性があるのです。
恋愛を心理学的に解説した本を読んだり番組を見ると、「吊り橋効果」が普遍的な恋愛テクニックとして紹介されることが少なくありません。
この効果を利用し、デートをするときはジェットコースターに乗ったり、お化け屋敷に行くことが推奨されています。
しかしこの効果はよく検証してみると、そもそも好意を持っている相手の魅力を増しているものであって、恋愛対象にならない相手には逆効果になってしまうようです。
ただ、デートの約束を取り付けるまで仲が進行している相手ならば、十分に効果はあると考えていいかもしれません。そのため、多くの解説ではこの魅力度によって効果がまったく逆に働くという研究報告の話は省かれているのでしょう。
吊り橋効果は気になる相手だからこそ、ドキドキを恋愛と勘違いし、相手の魅力を過大に評価してしまう効果といえます。
まるで親交がない相手に対して、自分に恋愛感情を向けさせる方法としては有効とは言えないどころか、嫌われてしまうかもしれないので注意しましょう。
参考文献
Sexual Attraction and Survival Mode
https://www.psychologytoday.com/us/blog/the-embodied-mind/201301/sexual-attraction-and-survival-mode
元論文
Passionate love and the misattribution of arousal.
https://psycnet.apa.org/doiLanding?doi=10.1037%2F0022-3514.41.1.56
Some Evidence for Heightened Sexual Attraction under Conditions of High Anxiety
https://www.researchgate.net/publication/18709788_Some_Evidence_for_Heightened_Sexual_Attraction_under_Conditions_of_High_Anxiety
Cognitive, social, and physiological determinants of emotional state
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14497895/
ライター
AK: 大阪府生まれ。大学院では実験心理学を専攻し、錯視の研究をしています。海外の心理学・脳科学の論文を読むのが好きで、本サイトでは心理学の記事を投稿していきます。趣味はプログラムを書くことで,最近は身の回りの作業を自動化してます。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。