私たちは真夜中を睡眠の時間に充てることで、まとまった休息を取っています。

しかし仏リヨン神経科学研究センター(CRNL)らの研究で、南極に住むヒゲペンギンはわずか4秒の短い居眠りを何千回と繰り返すことで、1日に必要な11時間の睡眠を取っていることが明らかになりました。

これは卵を食べにくる天敵や巣の資材を盗もうとするライバルから目を離さないために、ヒゲペンギンが編み出した睡眠テクニックのようです。

一体どのような寝方なのか、詳しく見ていきましょう。

研究の詳細は、2023年11月30日付で科学雑誌『Science』に掲載されています。

目次

  • ヒゲペンギンがゆっくり寝れない理由とは?
  • 4秒の睡眠を1万回も繰り返していた!

ヒゲペンギンがゆっくり寝れない理由とは?

ヒゲペンギン(学名:Pygoscelis antarctica)は、アデリーペンギン属に分類される一種で、南極大陸の周辺域に生息しています。

ヒゲペンギンの分布(水色が生息域、オレンジが繁殖地) / Credit: ja.wikipedia

白い顔の目の後ろから喉にかけて、黒い線模様が通っているのが特徴で、これがあごひげのように見えることから「ヒゲペンギン」という和名が付けられました。

ペンギンの中では最も個体数が多く、現時点で繁殖するつがいは約750万〜800万組に上ると言われています。

またヒゲペンギンの両親は、片方が海へ採餌に出かけると丸一日〜数日間戻らないため、残ったもう片方は陸で卵や巣の番をしなければなりません。

ヒゲペンギンの親子 / Credit: ja.wikipedia

主に卵を狙ってくるのはミナミオオトウゾクカモメ(学名:Stercorarius antarcticus)という海鳥で、それ以外にも仲間のヒゲペンギンたちが巣の資材を盗もうとしてきます。

彼らの生活を脅かす天敵やライバルはあちこちにいるため、子育て中の親ペンギンたちはゆっくりと眠る余裕がないのです。

かといって、片時も寝ないで見張りを続けるのは生きていく上で不可能です。

では、ヒゲペンギンはどうやって睡眠を取っているのでしょうか?

4秒の睡眠を1万回も繰り返していた!

研究チームは2019年12月、南極海に浮かぶキングジョージ島に赴き、そこに暮らす2700以上のヒゲペンギンのつがいから、卵を育てている14羽を選定。

そのペンギンたちに脳波(EEG)の測定装置や位置を追跡するGPSを取り付け、さらにビデオモニタリングも駆使して、2週間にわたる睡眠の実態調査を行いました。

脳波(EEG)の記録装置とGPSを取り付けたヒゲペンギン / Credit: P.-A. LIBOUREL et al., Science(2023)

その結果、ヒゲペンギンたちは数時間のまとまった睡眠を取るのではなく、平均3.91秒の”うたた寝”を1日に1万回以上も繰り返していることが判明したのです。

こうした数分の1秒〜30秒以内の非常に短い睡眠のことを「マイクロスリープ」と呼びます。

データ分析によると、ヒゲペンギンのマイクロスリープの72%は10秒未満であり、一時間あたり約600回の”うたた寝”をしていました。

それを1日で総合計すると約11時間の睡眠となっています。

面白いことに、彼らは立ったままでも横になったままでもマイクロスリープをしていました。

研究者いわく「わずか4秒の睡眠を何千回も繰り返す事例は、他の動物だけでなく、同じペンギンの間でさえ前例がない」といいます。

こちらはヒゲペンギンが「目を閉じる」タイミングと、それに対応して見られる睡眠状態の脳波の変化を示した映像です。

主に目を閉じているときに、脳が睡眠状態に入っていることが分かります。

(※ ペンギンたちの鳴き声が入っています。音量にご注意ください)

うたた寝を妨げるのは海鳥より仲間の騒がしさ?

一方で興味深いことに、巣がある場所によってヒゲペンギンの睡眠の深さや長さが変わっていました。

具体的には、巣が密集している中央部のペンギンよりも、周辺部にいるペンギンの方がマイクロスリープの数も時間も多くなっていたのです。

しかし天敵の海鳥に卵を狙われやすいのは一般に、仲間の巣から離れている周辺部の方と考えられています。

ところが実際には周辺部にいるペンギンの方がより多く眠れていました。

このことは海鳥のような天敵よりも、巣の資材を盗もうとするペンギンが近くにいることの方が強い警戒心が必要であることを示唆するものです。

またコロニーの中央部は、ペンギンたちが密集していることで騒音や物理的な接触も多いため、眠りにくい状況にあると考えられます。

中央部(紫)と水色(周辺部)の睡眠パラメータの比較。基本的に周辺部の方が眠れている / Credit: P.-A. LIBOUREL et al., Science(2023)

研究者らは、ヒゲペンギンが睡眠の回復効果を得ているかどうかを直接測定したわけではありませんが、その後、卵のふ化にちゃんと成功していたり、これほどコロニーが繁殖している事実から、”うたた寝の繰り返し”によって睡眠のベネフィット(利益)が十分に得られていると考えています。

しかし、こうした断続的な睡眠はヒトが同じことをすると、認知機能に悪影響を及ぼし、アルツハイマー病のような神経変性疾患を誘発する可能性が高まるという。

この独特の睡眠方法はヒゲペンギンだからこそ成せる技のようです。

ただ彼らも周りに天敵やライバルがいないのなら、ゆっくり休息の時間を取りたいのかもしれませんね。

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参考文献

Penguins snatch 11 hours of sleep through seconds-long micronaps
https://phys.org/news/2023-11-penguins-hours-seconds-long-micronaps.html

Vigilant Chinstrap Penguin Parents Sleep In 4-Second Bouts, 10,000 Times A Day
https://www.iflscience.com/vigilant-chinstrap-penguin-parents-sleep-in-4-second-bouts-10000-times-a-day-71795

Chinstrap Penguins Sleep Over 10,000 Times a Day—for Just Four Seconds at a Time
https://www.smithsonianmag.com/science-nature/chinstrap-penguins-sleep-over-10000-times-a-day-for-just-four-seconds-at-a-time-180983348/

元論文

Nesting chinstrap penguins accrue large quantities of sleep through seconds-long microsleeps
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adh0771

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 子育て中のヒゲペンギンは4秒のうたた寝を1万回も繰り返して11時間分の睡眠をとっていた!