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シマウマ・パンダ課題とは、画面の下部に位置する人型のキャラクターの左右の正方形の空欄に、シマウマとパンダのどちらに配置するかを決める課題です。
課題を行う際に、真ん中のキャラクターはパンダが好きで、シマウマが嫌いであることが参加者に伝えられます。
こうした条件を与えた上で実験を行うと、左利きの人はキャラクターの左側に、右利きの人はキャラクターの右側に、パンダを配置する傾向がありました。
後続の実験では、紙面の左右に配置された宇宙人に対し、「どちらの方が魅力的(知的、誠実)か」の質問に回答してもらい、利き手側の方の宇宙人がポジティブな評価がされやすいことが分かっています。
この結果は、快・不快などの情動といった抽象的な概念が、身体の左右の空間と強い結びつきを持っていることを示唆していると言えるでしょう。
この現象は「水平情動メタファ」と呼ばれています。
ではなぜ「水平情動メタファ」は生じるのでしょうか。
主流となっているのは、処理のし易さが関与しているという説明です。
具体的には、利き手側の方が流暢に外界とのインタラクションを行うことができるため、利き手側とポジティブな感情を結びつけるようになったのではないかという考えになります。
この「水平情動メタファ」が処理の流暢性によって生じている根拠になるデータをカササント氏は提出しています。
2011年に「Psychological Science」に投稿された、蘭ラドバウド大学のカササント氏らの研究によれば、利き手の流暢性を欠くことで「水平情動メタファ」が消滅することを報告しています。
実験では健常な右利きの大学生55名が参加しました。
参加者は、まず片手に分厚いスキーグローブを、もう片方の手に薄い手袋をはめ、それぞれ片手だけでドミノを並べる状態を約12分間経験してもらいました。
その後、前述した実験と同様にシマウマ・パンダ課題を行っています。
実験の結果、右手にスキーグローブをはめた人はキャラクターの左側に、左にスキーグローブをはめた人はキャラクターの右側に、キャラクターが好きなパンダを配置する傾向が確認されました。
スキーグローブをはめ、利き手が不自由になる状態を少しの間経験することで、「水平情動メタファ」が生じなくなり、左側にパンダを配置するようになったのです。
研究チームは「人々は、通常自分の意思に従って合理的に意思決定をしていると考えている。しかし少しの間グローブをはめ、利き手の不自由さを経験するだけで、良し悪しの判断に変化が生じてしまう」と述べています。
このような「水平情動メタファ」はアプリのユーザーインターフェースなどデザインの分野で活用されています。
具体的な例としてマッチングアプリの「Tinder」があるでしょう。
Tinderでは、スマホに表示される写真に対し、良い場合には右、悪い場合には左にスワイプすることでマッチング相手を評価する仕様を採用しています。
このようなシステムは、「水平情動メタファ」に基づいたユーザーフレンドリーなシステムだと言えるでしょう。
逆に言えば、気になる相手の利き手側の席に座るなどすると、相手に好意を持ってもらえるかもしれません。
みなさんも身の回りのある、「水平情動メタファ」を活用したものを探してみてください。
参考文献
Emotion Is Reversed in Left-Handers’Brains
https://www.psychologytoday.com/intl/blog/malleable-mind/201205/emotion-is-reversed-in-left-handers-brains
元論文
Embodiment of abstract concepts: good and bad in right- and left-handers
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19653795/#full-view-affiliation-1
When Left Is “Right”: Motor Fluency Shapes Abstract Concepts
https://psycnet.apa.org/record/2011-07884-001
ライター
AK: 大阪府生まれ。大学院では実験心理学を専攻し、錯視の研究をしています。海外の心理学・脳科学の論文を読むのが好きで、本サイトでは心理学の記事を投稿していきます。趣味はプログラムを書くことで,最近は身の回りの作業を自動化してます。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。