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そこでスレビアン氏ら研究チームは、「ポジティブな」「良い」ニュースを秘密にすることに焦点を当て調査を行うことにしたのです。
500人を対象にした事前調査では、76%が「良いニュースを知ったら、すぐにそれを誰かに伝える」と答えています。
これに同意する人は多いでしょう。良いことを聞いたなら、嬉しくてそれを黙っていられなくなるのが人情です。
しかし同調査は、プロポーズ、高価なプレゼント、合格通知など、ポジティブな報せをあえて秘密にすることも少なくないことが示されました。
この結果にも共感する人は多いはずです。
ではネガティブな隠し事と異なり、良いニュースを秘密にしておくことは、その人自身にどんな影響を与えるのでしょうか?
この問題を理解するため今回の研究では、2500人の参加者を対象に複数の実験を行いました。
この実験では、「何らかの目標の達成」「なんらかの賞の受賞」「サプライズの企画」「ギャンブルで勝った」など、一般的にポジティブと考えられる出来事が約40種類記載されたリストを参加者に見せます。
そしてその中から、今あなたがどの良いニュースを持っていて、そのうちのどれを秘密にしているかを尋ねました。
すると参加者は、平均して14~15個の良いニュースを持っており、そのうちの平均5~6個を周りの人に秘密にしていることがわかりました。
そして実験では参加者を2つに分け、一方には隠していない方の良いニュース、もう一方には隠している良いニュースについて振り返ってもらい、そのときの気分を主観的活力感(Subjective Vitality Scale:SVS)というポジティブな感覚を調査する心理学的指標を使って評価しました。
その結果、「秘密にしなかった良いニュース」よりも「秘密にしていた良いニュース」について考えたときの方が、参加者たちを元気づけることがわかったのです。
このことからスレビアン氏は、「ポジティブな秘密を持っていることは、その人を良い気分にさせ元気づけてくれる」と結論づけました。
ただ、こうした良いニュースの秘密は、ずっと秘密として持っておくだけでいいのでしょうか?
追加の実験では、「良いニュースを秘密にした後、パートナーに伝えることができるケース」と「秘密にしたまま伝えることができないケース」を想像してもらい、同様に心理学的指標を用いて参加者の気分を評価しました。
その結果、参加者たちは前者の方がより元気づけられることが示されました。
このことから、良いニュースを秘密にする効果とは、単に「隠しておく」ことが重要なのではなく、「伝える場面を思い浮かべる」ことが、その人の幸福度を向上させていると分かります。
もちろん、状況によっては「結局伝えられないまま終わる秘密」もあるかもしれません。
しかし、結果的にどうであろうと「後で人に教えるつもりで嬉しい秘密」を持っておくことが、人に大きな活力を与えるようです。
「いつ打ち明けようか」「どんな反応をするだろうか」とワクワクすることが、その人をいっそう生き生きとさせるのです。
研究チームは、「ポジティブな秘密は、その人自身の欲求や願望によって自発的に守られる」ことも発見しました。
これは、外圧・恐怖・恥ずかしさによって、言いたくても言い出せない状況にある「ネガティブな秘匿」とは対照的です。
良いニュースに対する秘密主義は、その人自身のポジティブな感情を刺激し、良い影響を与えるのです。
ちなみに、2023年7月の上智大学の研究では、「サプライズをしても相手の喜びや感謝の度合いは高まらない」と報告されています。
このことからも、ポジティブなニュースをあえて秘密にする(サプライズを仕掛ける)ことは、「相手を喜ばせる」というよりも「自分自身の活力」のためのものだと分かりますね。
もし、良いニュースを見つけたり、楽しいイベントを計画していたりするなら、自分のために、しばらく秘密にしておくのがいいようです。
きっとあなたはその間、いつもより幸福感に満ち、ワクワクした日々を送ることができるでしょう。
参考文献
When keeping secrets could brighten your day
https://www.apa.org/news/press/releases/2023/11/keeping-secrets
元論文
The bright side of secrecy: The energizing effect of positive secrets.
https://psycnet.apa.org/doiLanding?doi=10.1037%2Fpspa0000352