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ヒマワリはもちろん、あらゆる植物は光に応じて成長を操作する性質を持っており、そのような性質を光屈性といいます。
例えば茎や花など光がある方向へ成長する性質を正の光屈性といいます。
逆に植物の根は負の光屈性を持っているため、光のない方を目指して地中深く成長していきます。
さらに正の光屈性の1つで、植物が強い光のある方へ傾いて成長する性質が向日性です。
茎の傾きは茎の光が当たる側と当たらない側の成長速度が異なることによって生じます。
ヒマワリの場合、光がよく当たる側の成長速度が遅く、当たらない側の成長速度が速くなることで、つぼみや花が太陽の方に向かうよう茎が傾いていくのです。
しかしそもそも植物の光屈性は、光を感知しないと始まりません。
目のない植物が光をどのように感じているのか、その答えは植物の中にある光受容体タンパク質にあります。
特に「フォトトロピン」と呼ばれる青色光受容体タンパク質の一種は光屈性に大きく関わることが知られています。
フォトトロピンという名前も、光屈性の英語「Phototropism」が語源になっているほどです。
フォトトロピンは光屈性のほか、気孔の開閉、また葉緑体の光に向けた運動など光が関わる植物の様々な性質に関わっています。
このため、研究グループはヒマワリが太陽の方を向けて茎を傾けていく性質についても、フォトトロピンが大きく関わっていると考えていました。
しかし、実際に太陽光を受けたヒマワリについて光受容体がどのように活性化しているか調べてみると、意外な事実が明らかになったのです。
ヒマワリが光を感知するのにフォトトロピンを使っているのなら、光を感じたときヒマワリの茎ではフォトトロピンに関する遺伝子が活性化するはずです。
ブルックス氏らがヒマワリの光に対する挙動を観察した結果、屋内で育てられたヒマワリに人工光源をあてた場合は予想通りフォトトロピンに関わる遺伝子が活性化していました。
しかし、屋外で育ったヒマワリが太陽光を浴びた場合にはまったく異なる遺伝子発現パターンを示したのです。
その遺伝子発現パターンを解析した結果、太陽光の下のヒマワリが光を感知するためには青色光受容体クリプトクロムだけでなく赤色光を吸収するフィトクロムも大きく関わっていることがわかりました。
さらに、フォトトロピンが受容する青色光のみ通らないようにシェードをかぶせても、向日性が失われず、赤色光を含む他のいろんな光をそれぞれ通らないようにしても同じ結果となりました。
このことから屋外のヒマワリは様々な色の光の受容体で成長を制御していると考えられます。
屋外ではどの波長の光を遮断しても茎の傾きが観察されたことから、研究グループはヒマワリが光に反応するというよりは、日陰に反応している可能性も示唆しています。
また、ブルックス氏らは屋内で育てていたヒマワリを屋外に出した際の挙動についても観察を行いました。
屋内で人工光のみで育てていたヒマワリも、屋外に出すとその日から太陽を追いかけ始めたといいます。
研究グループはこの性質の変化について、ヒマワリが持つ概日リズムの影響を指摘しています。
概日リズムとは地球上のすべての生き物が持つ地球の自転に合わせた生態リズムです。
私たちを含むあらゆる生き物は睡眠や体温、心拍数など約24時間のリズムで変動しています。
例えば私たち人間がずっと屋内にいても夜になると眠くなり、朝になると目が覚めるように、ヒマワリもまた概日リズムによって太陽を追いかけるのではないかと考えたのです。
実際、ヒマワリの遺伝子の62%が強い概日リズムを持つことがわかっています。
これは他の植物のほぼ倍で、遺伝子的に見てもヒマワリは強い体内時計を持っていることがわかります。
屋内で育ったヒマワリは人工の光しか受けていませんが、生まれ持った体内時計で太陽が出るタイミングを理解しているのです。
さらに、ヒマワリは夜になって太陽の光を追えない状況になっても、太陽が沈んだ西から太陽から出る東に花の向きを変えます。
光が全くない夜に動いているのですから、光以外にもヒマワリを動かす因子があるということです。
つまり、ヒマワリは光だけじゃなく「時間」も感知して茎の傾く向きを変えていると考えられます。
なお、ヒマワリが屋内から屋外に適応したときには、遺伝子の爆発的な発現が観察されました。
詳しい挙動についてはまだわかっていませんが、この遺伝子の爆発的な発現は人工光のための光感知パターンから太陽光向けの光感知パターンに切り替えるためのものではないかと推察されています。
今回の実験では屋内のヒマワリと屋外のヒマワリで全く挙動が異なっていました。
ヒマワリが屋外で太陽の光を感知する挙動にはヒマワリの中にある体内時計も深く関わっており、それは単に「光を感じる」だけではないもっと複雑なものです。
またヒマワリの遺伝子は日陰側で大きく活性化していました。
ヒマワリが「光の方を向く」行為には「光に向けて伸びる」正の光屈性ではなく「日陰の成長を促進する」負の光屈性の方が大きく関わっている可能性があります。
何にせよ実験室で特定の光をあてるだけでは、ヒマワリの太陽に対する挙動を知ることはできません。
今後は植物の研究において、実験室で光を当てる場合だけでなく、自然光下の調査も不可欠だとわかったこともこの研究の大きな収穫と言えるでしょう。
参考文献
How Do Sunflowers See the Sun?
https://www.technologynetworks.com/tn/news/how-do-sunflowers-see-the-sun-380496
元論文
Multiple light signaling pathways control solar tracking in sunflowers
https://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.3002344