- 週間ランキング
これまでの研究で、ADHDと診断された人は、子供も大人もの含めて、睡眠の質が低下しやすいことが分かっています。
眠りに落ちるまでに時間がかかったり、入眠した後で何度も目を覚ます傾向があるためです。
特に子供の睡眠不足は成長や認知発達において多大な悪影響となり、深刻化すれば、うつ病や不安症を併発するリスクも高まります。
これに対する従来の対策としては入眠を促す薬物療法がありますが、副作用が起きないとは断言できないため、より安全なアプローチが求められていました。
そこでハルムスタード大の研究チームが注目したのが「重い毛布」です。
重い毛布は「加重毛布」や「加重ブランケット」と呼ばれ、通常の毛布の約3倍以上の重さがあります。
成人を対象としたスウェーデン・カロリンスカ医科大学(KI)の先行研究ではすでに、加重毛布を使うことで不眠が改善され、不安やうつ症状が軽減したという結果が報告されていました(JCSM, 2020)。
加重毛布には重みがある分、体により密着して体と毛布との隙間を減らし、保温性が高まって暖かく感じやすくなります。
また加重毛布による体への適度な圧迫感は、”幸せホルモン”として知られるオキシトシンの分泌を促し、リラックス効果や安心感を生むことが指摘されています。
これはハグしたときに見られる効果と同じです。
その一方で、加重毛布がADHDの子供の睡眠改善にも役立つかどうかは調べられていません。
チームはこの正否を今回の実験で確かめることにしました。
本調査は、ADHDと診断されている子供94名(男児54名・女児40名・平均年齢9歳)を対象としました。
実験は保護者の協力のもと、それぞれの自宅で実施し、子供たちには「普通の毛布で寝る条件」と「加重毛布で寝る条件」で4週間ずつ(計8週間)寝てもらいます。
普通の毛布は重さ2キロ、加重毛布は子供の身長・体重・年齢に合わせて6〜10キロの間で最適なものを選択しました。
実験中はウェアラブル装置によって睡眠データを記録し、その後に子供と保護者の両方にアンケートを取ります。
データ収集は2019〜2022年の9月7日〜翌6月4日の間に行われました。
その結果、加重毛布を使用した子供は、普通の毛布を使って寝た場合に比べて、睡眠の質が有意に改善していることが判明したのです。
具体的には、入眠までの時間(SOL)が平均1.74分短くなり、入眠後の覚醒時間(WASO)は平均2.79分短く、反対に総睡眠時間(TST)は平均7.72分長くなり、睡眠効率(SE)は0.82%高くなっていました。
さらにADHDの不注意特性が強い11〜14歳の子供に限定すると、総睡眠時間は平均16分も長くなっていたのです。
これらの結果は、加重毛布がADHDの子供の睡眠の質を安全な方法で改善できることを示しています。
今回の調査は子供を対象としたものですが、先に示したカロリンスカ医科大の研究のように、不眠や不安症を抱える大人でも加重毛布を使うことで睡眠の質が改善することが分かっています。
そのため、ADHDと診断されている人、あるいは日頃から不注意が多かったり、夜中によく目覚めてしまう人は、重い毛布を使って寝ると熟睡できるようになるかもしれません。
参考文献
Weighted blankets improve sleep in children with ADHD, study shows https://www.psypost.org/2023/10/weighted-blankets-improve-sleep-in-children-with-adhd-study-shows-214162元論文
The efficacy of weighted blankets for sleep in children with attention-deficit/hyperactivity disorder—A randomized controlled crossover trial https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jsr.13990 A randomized controlled study of weighted chain blankets for insomnia in psychiatric disorders(2020) https://jcsm.aasm.org/doi/10.5664/jcsm.8636