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よりアバターに対する身体所有感(自分の体である感覚)を高めるために、VR上では鏡を見ながら声を出したり、頭を回す、頷くなど身体を1分程度動かしてもらいました。
VR上では、アバターの見た目だけでなく身体の動きもトラッキングし、アバターは本人の動きと同期するようになっています。
その後、参加者に急遽100万円を手にしたときに、そのお金を現在と退職後のどちらにどれくらいの割合で使うかを回答してもらっています。
さて将来の自分の姿に一時的になることでどれくらいの金額を将来の資金として分配するようになったのでしょうか。
実験の結果、VR上で現在の姿を反映したアバターになった人と比較して、年老いたアバターになった人は、約2倍多くお金を退職後の資金に回す傾向がありました。
ただこの実験はVR上でアバターになるという手間のかかることをしているため、私たちが日常でこの効果を利用しようとしても実行は困難です。
そこでハル氏ら研究チームは後続の研究で、VR上ではなく自撮り写真に老け顔フィルターをかけた写真を見ることでも、今回確認された効果を再現できるかを検討しました。
実験ではAforeMovilと呼ばれるネットバンキングアプリを利用している48,853名でした。
参加者は、以下の実験介入群と統制群の2つのグループに分けられました。
実験介入群:1カ月間に複数回、写真を撮って老け顔フィルターをかけることができるURLの送付(あるいは通知)がされる。自分の顔の写真を撮影し、老けた顔フィルターをかけた後に、「彼(老けた自分)のために貯金しますか?」というメッセージと退職後の貯蓄用アカウントへのURLが表示される。
統制群:1カ月間に複数回、退職後の貯蓄用アカウントのURLのみの送付を受ける。
実験の結果、将来の自分の老けた姿を見た人は、自分の老けた顔を見なかった人と比較して、約43%も多くのお金を退職後の資金として貯蓄する傾向が確認されました。
この結果はアバターでなくとも、自撮り写真を老け顔フィルターをかけるだけで、退職後の貯蓄行動を促進することができることを示唆しています。
ではなぜこのような現象が生じるのでしょうか。
現在の価値に重きを置く現象は、将来の自分との心理的距離が遠く、現在の自己との結びつきが弱いことや将来の状態の想像力の欠如から生じると考えられています。
研究チームは「自分の老けた顔を見る経験は現在の支出よりも将来のための貯蓄に回すモチベーションを高めた。未来の自分の姿を見ることで、未来がより身近なものに感じ、現在の資産を老後に割り当てるようになったのでは」と述べています。
これらの結果を考慮すると、たとえば、Amazonのアカウントやネットバンキングのアイコンを自分の年老いた写真にすることで、無駄な買い物を減らすことができるかもしれません。
いまでは気軽にスマホアプリの「AgingBooth」やTikTokの老け顔フィルターである「aged effect」などで自分の年老いた姿を見ることができます。
もし「無駄遣いをやめたいのにやめられない」「節約したいのにできない」、という人がいるなら今回の記事をきっかけに自分の将来の姿を見てみるのはどうでしょうか。
参考文献
After 15 years of research, a psychologist says this ‘simple trick’ can help millennials retire faster https://www.cnbc.com/2020/02/25/millennials-can-retire-faster-using-this-simple-trick-says-psychologist-after-15-years-of-research.html元論文
Increasing Saving Behavior Through Age-Progressed Renderings of the Future Self https://journals.sagepub.com/doi/10.1509/jmkr.48.SPL.S23 Saving for retirement: A real-world test of whether seeing photos of one’s future self encourages contributions https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/23794607231190607