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今回、ザネット博士ら研究チームが南アフリカで行った実験では、19種類の哺乳類が、さまざまな音声にどう反応するかを観察しました。
この音声には、人の声、ライオンの鳴き声、犬の吠え声、銃の音などが含まれています。
人の声には、この地域でよく話される4つの言語(ツォンガ語、北ソト語、英語、アフリカーンス語)の人々がテレビやラジオで話している声が使われました。
これらの人の声は、威嚇するような声ではなく、普通の会話の大きさで録音されています。
犬の吠える声や銃の音は、人間が狩りをする時の音を使用しています。
そして、ライオンの鳴き声の録音は、ライオンの専門家であるミネソタ大学のクレイグ・パッカー氏の助けを借りて作られました。
ライオンの鳴き声も唸り声などではなく、他のライオンとの会話のようなものが用いられました。これによって、ライオンが鳴く声と人が話す声を直接比較することができるのです。
この研究で動物たちの反応を正確に記録するために、特別に作られたカメラとスピーカーを組み合わせた装置が使われました。
そして、防水対策されたこの装置は頑丈な箱に入れて水場に置かれました。
カメラが箱に入れられた理由は、ハイエナやヒョウがカメラを噛むのが好きだからとのことです。
しかしこの実験中では、ある夜ライオンの鳴き声を流したところそれを聞いたゾウが怒り、カメラに突進して壊してしまうという事件が起きたそうです。
下記は、論文に添付されているゾウが怒ってカメラを壊すシーンの動画です。ゾウはライオンの声を聞いても逆に寄ってきて威嚇するような行動が多く、最後の1分30秒辺りではカメラを破壊しにきています。
アクシデントはありつつも、調査の結果として多くの動物が水を飲みに来る時の様子をビデオで捉えることができました。
調査終了後、研究チームは1万5000本にも及ぶビデオをチェックし、データを確認しました。
今回の調査の結果、動物たちは人間の声を聞いたとき、ライオンの鳴き声や狩猟の音(銃声と犬の鳴き声)を聞いた時の2倍の確率で驚き、逃げ出したり、水飲み場を避ける行動をとることがわかりました。
キリン、ヒョウ、ハイエナ、シマウマ、イボイノシシ、インパラ、ゾウ、サイなど、調査された動物の95%が、ライオンの声よりも人の声に強く反応して、速やかにその場を離れたり、水飲み場を放棄していたのです。
こちらが論文に添付されている、人間の声を聞いた動物たちの反応です。かなり慌てて逃げ出しているのがわかります。
15秒辺りでは獲物をくわえて引きずっていたヒョウが、人間の声を聞いた途端、せっかくの獲物を放棄して逃げ出しています。
一見、ただ急に響いてきた音に驚いているだけのようにも見えますが、ライオンの鳴き声では逃げなかったにも関わらず、人間の声では逃げた動物が多かったことから、やはり人間の声を避けていると推測されます。
研究チームは、絶滅の危機にあるミナミシロサイを、南アフリカでの密猟が頻発する地域から遠ざけるため、今回のシステムを用いた特製の音響システムを活用できるかどうかの調査を進めています。
現在までの結果としては、人間の声を使ってミナミシロサを特定の場所から遠ざける取り組みはうまくいっているようです。
ザネット博士は次のように話します。「サバンナに生息する多くの動物が人間を恐れている現象は、人間が自然環境に及ぼしている影響の大きさを示しています。もちろん、生息地の減少、気候変動、種の絶滅といった問題も非常に重要です。しかし、人間がただ存在するだけで動物たちが強い警戒心を示すという事実は、他のどんな捕食者よりも彼らが人間を恐れていることを物語っています」
動物は狩猟されなければ人間に慣れるという考え方が一般的かもしれませんが、今回の研究から、そのようなことはないことが示されました。
人間はその長い歴史の中で、多くの動物を狩猟してきました。
その結果、私たちが思っている以上に、動物たちの人間に対する恐怖は深く根付いているのかもしれません。
参考文献
Fear of human ‘super predator’pervades the South African savanna https://phys.org/news/2023-10-human-super-predator-pervades-south.html元論文
Fear of the human “super predator” pervades the South African savanna https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(23)01169-7