- 週間ランキング
その結果、話し言葉を理解する速さは20代半ば〜30代前半でピークに達することが判明しました。
以前に行われた類似研究では、16〜18歳でピークに達すると示唆されていたので、これは言語の理解スピードが予想よりずっと遅くまで発達を続けることを示す結果です。
その一方で、このピークはそれほど長くは続きませんでした。
実験では、話し言葉の理解スピードは40代半ばを境に低下する傾向が見られたのです。
これは先ほどと反対に、従来の予想よりずっと若い年齢でした。
また66歳〜78歳の高齢グループでは、事前の予想通り、他の年齢層に比べて話し言葉を理解する速さが遅くなっていたとのことです。
聴力に問題はなかったため、話し言葉を処理する脳の認知プロセスに何らかの原因があると見られています。
では、その原因とは何なのでしょうか?
研究主任のボブ・マクマリー(Bob McMurray)氏は、言葉の処理スピードが20代でピークに達し、40代で低下し始める正確な理由は定かでないものの、可能性として一つの説が考えられるといいます。
それは語彙の最大容量が40代半ばでピークに達するという仮説です。
マクマリー氏によると、人間が記憶できる語彙は約3万語で最大容量に達するという。
そうであれば、ある話し言葉を聞いて、それを理解するまでに類似する多くの言葉を脳内で処理しなければならなくなります。
自宅の本棚に例えてみましょう。
所有する本の冊数は年齢を重ねるごとに多くなっていくとします。
ある日、友人が訪ねてきて「〜という本を貸してほしい」と言われると、棚に並ぶ冊数が多いほど、該当する本を探し当てるのに時間がかかるでしょう。
要するにマクマリー氏は、話し言葉の処理スピードの低下は、脳の衰えというより、語彙の豊富さから生じるのかもしれないと考えるのです。
一方で、この話はどこか単純すぎる気もします。
若者であっても読書量が豊富であったり、あるいは言語学を専門とする若手研究者だと、一般的な40代に比べて大幅に語彙のキャパが多くなっていると予想できるからです。
そうした人々も話し言葉を理解するスピードは遅くなるのでしょうか?
もしそれが実証されれば、マクマリー氏の仮説も正しいことになりますが、これについては追加実験が必要です。
他方で今回の実験では、66歳〜78歳の高齢者の間で、話し言葉の理解スピードに「個人差」が見られることも示されました。
これについてマクマリー氏は、日常的にどれだけ社会に参加し、友人や他者と会話をしているかが関係していると指摘します。
高齢者でも普段からよく会話をしていれば、言語処理を行う脳領域が刺激され、言葉の理解速度も鍛えられるでしょう。
反対に、ほとんど誰とも話さない生活を送っていれば、発話能力や話し言葉の理解速度の衰えが進むと考えられます。
それらを踏まえ、日常的に会話を積極的にしていれば、話し言葉の理解スピードの低下は予防できるかもしれません。
参考文献
Language recognition is as much about brains as it is about hearing https://now.uiowa.edu/news/2023/09/language-recognition-much-about-brains-it-about-hearing元論文
Efficiency of spoken word recognition slows across the adult lifespan https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0010027723002226#ab0005