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実際、ここ十数年でロボットアームの開発は急速に進んでおり、人間は機械で拡張された複数の腕を操って作業する時代が近づいています。
ただ開発に成功したとして、そのロボットアームはすぐさま自由自在に扱えるものなのでしょうか?
「もしかして何年もの訓練や努力が必要になるのでは?」と懸念もされます。
そんな中、英ロンドン大学クイーン・メアリー(QMUL)の最新研究により、私たちはわずか1時間の訓練でロボットアームを効果的に使用できる可能性が示されました。
第3・第4の腕を操るのは、そう難しいことではないのかもしれません。
研究の詳細はオープンアクセスの学術誌『IEEE Open Journal of Engineering in Medicine and Biology』に掲載されています。
目次
ロボットアームによる人間の能力の拡張というアイデアは、長い間、フィクション作品の中だけの話に留まっていました。
アメコミの『スパイダーマン』に登場する宿敵・ドクターオクトパスなどはその最たる例です。
映画『スパイダーマン2』(2004)では、AIを搭載した4本のロボットアームを自身の脊髄に接続し、制御チップを介して自在に操作する姿が描かれていました。
こうした技術は現実の社会にとっても非常に魅力的であり、外科手術や災害現場での人命救助など、実現すれば大いに役立つと考えられます。
また一般人の私たちでも、大きな荷物を両手に持ったまま玄関のドアを開けるなど、日常生活で2本以上の手が欲しいシーンはいくらでもあるでしょう。
その実現のために多くの研究者が開発に取り組んでいますが、課題は高性能のロボットアームを完成させられるかどうかだけではありません。
研究主任でQMULの電子工学者であるエカテリーナ・イワノワ(Ekaterina Ivanova)氏が問題視するのは、ロボットアームをユーザーが自由自在に操作できるかどうかです。
ロボットアームの開発に成功したとしても、それを自分の腕と同じように扱えるまでに長い年月を要したり、熟練した技術が必要になると、社会への利益は小さくなります。
そこでイワノワ氏は、私たちがロボットアームを操作できる能力を検証することにしました。
研究チームは24人の参加者を対象に、第3の腕(ロボットアーム)を制御する仮装シミュレーションを行いました。
ここでは両手で2本のアームを、片足のいずれかで第3のアームを操作するシチュエーションを想定しています。
実際、外科手術の現場では両手と両足で4本のロボットアームを操作するシステムが考案されています(参考動画はこちら)。
実験では3つのエフェクター(操縦機)を操作して、コンピューター上の三角形を動かすゲームに取り組んでもらいました。
三角形を動かすには左右の手と片足の動きをうまく調和させなければなりません。
参加者は、画面上のどこかにランダムに現れる黒丸マーカーに三角形の重心を3秒以内に合わせることを求められます。
また実験では、このグループの対照群として、両手のエフェクターを一人で操作し、片足のエフェクターをもう一人のパートナーに操作してもらうペア(2人1組)のグループも用意しました。
以前行われた同様のテストでは、ペア(2人1組)の方が三角形をうまく動かすことに長けていましたが、そのときは1人で3つのエフェクターを動かすグループに訓練の時間が一切与えられていませんでした。
そこで今回は、1人のグループに1回15分の訓練を3日間(最大4回の計60分間)続けてもらっています。
その結果、わずか1時間の訓練で、1人でもペア(2人1組)のグループと同じくらい効果的に第3の腕を操れるようになることが示されたのです。
イワノワ氏はこれを受けて、私たちは比較的短時間のトレーニングでロボットアームを効果的に使用できる可能性があると述べました。
ただロボットアームには、足を使って第3・第4の腕を動かす方法から、脳に電極を移植して本人の意思で動かす方法まで、さまざまなパターンがあります。
それゆえ、今回の結果をすべてのロボットアームに当てはめることはできませんが、それでもロボットアームの開発を進める上で有望な成果だとチームは話しています。
参考文献
One-hour training is all you need to control a third robotic arm元論文
Can Training Make Three Arms Better Than Two Heads for Trimanual Coordination?