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さて、今回の主役であるメトセラは1938年11月に米マトソン航行会社の定期船にのって、カリフォルニア州にあるスタインハート水族館(Steinhart Aquarium)に到着しました。
1938年というと、まだ第二次世界大戦も始まっていない時期です。
メトセラは当初、フィジーとオーストラリアで捕獲された231匹の魚と一緒にやって来ましたが、他のどの魚よりも長生きし、ついには同館で最も長寿かつ人気の魚となりました。
現在のサイズは全長1.2メートル・体重11キロとオーストラリアハイギョの一般的なメスと同等ですが、お腹を地面に擦るユニークな行動を取るそうです。
年齢に見合わず食欲旺盛で、飼育員から手渡しでエサをもらう姿が子供のように愛らしく、その姿を見るたびにメトセラの実年齢が分からなくなるといいます。
同館のチャールズ・デルベック(Charles Delbeek)氏は「メトセラが1930年代後半に水族館に来たことは確かですが、当時は年齢を測定する技術がなかったため、科学的根拠に基づいた正確な年齢は不明でした」と話します。
そこで研究チームは、最先端のDNA検査を用いて、メトセラの年齢を割り出すことにしました。
今回の研究ではメトセラの他に、年齢の分かっている2匹のハイギョ(50歳と54歳)および米国・豪州の6つの機関から提供してもらった計30匹のハイギョを対象にしました。
従来のハイギョの年齢測定は、耳石や耳骨の回収・ウロコ全体の除去など、魚にダメージを与える侵襲的な方法が主でした。
しかし今回は、ヒレから0.5平方センチメートル未満の組織サンプルを採取し、そこからDNAがどれだけ摩耗しているかを調べることで年齢を推定しました。
そのDNAデータを年齢の分かっている2匹のハイギョや他の30匹のハイギョと比較することで、メトセラの実年齢を割り出します。
結果、メトセラの年齢は92歳から最大で101歳に達していることが判明したのです。
研究主任でCSIROの分子生物学者であるベン・メイン(Ben Mayne)氏は「1870年にオーストラリアハイギョが発見されてから初めて、本種の最大年齢を予測することに成功した」と述べています。
また本研究は、オーストラリアハイギョ自体の年齢測定の精度を高めることにもつながりました。
年齢を詳しく知ることは、オーストラリアハイギョが野生下でどれだけ長く生存し繁殖できるかを理解し、個体数維持や保全活動を促進する上で大いに役立ちます。
現在、野生のオーストラリアハイギョはクイーンズランド州を流れる一部の河川にのみ分布し、ダム建設などによる生息地の破壊で徐々に数を減らしています。
すでに絶滅危惧種にも指定されているため、保全活動は急を要する課題です。
そうした仲間の存続の危機をよそに、メトセラは飼育魚の最高齢記録を大きく伸ばすことになりました。
見た目に弱っている様子もないため、今後もまだまだ記録を更新していくかもしれません。
ちなみに名前の由来になった「メトセラ」とは、旧約聖書の『創世記』に登場する伝説的な人物で、あの”ノアの方舟”で知られるノアの祖父に当たります。
メトセラは969歳で死んだと記述されており、聖書全体においても最も長寿の人物です。
まさに今回の研究で、その名前に偽りのない魚であることを証明しました。
参考文献
World’s oldest aquarium fish ‘Methuselah’could be decades older than we originally thought, DNA clock reveals https://www.livescience.com/animals/fish/worlds-oldest-aquarium-fish-methuselah-could-be-decades-older-than-we-originally-thought-dna-clock-reveals California Academy of Sciences Reveals Age of World’s Oldest Living Aquarium Fish https://www.calacademy.org/press/releases/california-academy-of-sciences-reveals-age-of-world%E2%80%99s-oldest-living-aquarium-fish World’s oldest living aquarium fish could be 100 years young https://www.popsci.com/science/worlds-oldest-living-aquarium-fish/