- 週間ランキング
ダヴィンチは生前、より正確な樹木のデッサンを目指して、あらゆる木々のサイズ比を調べていました。
その結果、すべての樹木に見られるある傾向に気づきます。
それが先ほど述べた法則で、ダヴィンチは自身のノートに「すべての枝の断面積の合計は、枝分かれする前の幹の断面積に等しい」と書き残しました。
さけるチーズを想像していただくと、より分かりやすいかもしれません。
チーズを真ん中あたりまでいくら細かく裂いても、それを握り合わせて合計すると元の1本の太さに戻ります。
ダヴィンチはこれが樹木に当てはまることを今から500年以上も前に発見したのです。
単純ではありますが、実に驚くべき法則でしょう。
この洞察は風景画を写実的に描く上で非常に役立ったと言われています。
さらに驚くべきは、この法則が現代の植物学においても広く受け入れられていることです。
実際、3Dスキャン技術を用いたある研究では、枝の総断面積が幹の面積にかなり近くなることが示されています。
加えて、近年の研究では、樹木がダヴィンチの指摘した法則通りに枝分かれすると、風への抵抗力が増し、強風によるストレスを軽減できることが示されているのです。
このように大昔にダ・ヴィンチが発見した木の法則は、現代の植物学者たちから見ても非常に興味深いものなのです。
そのため、このダ・ヴィンチの法則に基づく新しい研究も未だに報告されています。
それが今回の研究チームが発表した、樹木の内側を走る「維管束システム」にはダヴィンチの法則が当てはまらないという新しい発見です。
植物の内部には、水や養分を運ぶ血管のような通り道が走っています。
根っこから吸い上げた水分の通り道が「道管」、葉っぱで作られた栄養分の通り道が「師管」と呼び、それら2つが束状に合わさったものが「維管束」です。
植物学者たちはこれまで、ダヴィンチの提唱した「木の法則」が内側を走る維管束システムにも適用できるものと考えていました。
つまり、維管束システムの断面も木の枝分かれに伴い、同じ比率で徐々に細く小さくなっていくと思っていたのです。
しかし研究主任のルーベン・ヴァルブエナ(Ruben Valbuena)氏とスチュアート・ソップ(Stuart Sopp)氏は、この法則を実際の維管束システムの働きに適用してみると、無理が生じることを発見しました。
最大の問題は維管束システムの「水圧抵抗」が維持できなくなることです。
樹木が水や養分を根っこから葉っぱまで効率的に送り届けるには、一定の水圧抵抗を幹から枝の先端にわたって維持しなければなりません。
ところが、ダヴィンチの「木の法則」を維管束システムに適用すると、途中で維管束が水や養分を輸送できなくなることが計算で突き止められたのです。
そこで維管束システムは根から葉先へ液体を輸送するために、一定の寸法を維持する必要があります。
結果として、枝分かれによって樹木の枝そのものは細くなっていくの対し、内部の維管束システムは一定の寸法を維持することで、周囲の枝の体積に対する比率が先に行くにつれて大きくなっていたのです。
これはダヴィンチの「木の法則」が維管束には当てはまらないことを示しています。
この結果について、ヴァルブエナ氏は「ダヴィンチの法則は樹木の顕微鏡的なレベルでは当てはまらない」と指摘しました。
しかし裏を返せば、顕微鏡でやっと見える維管束を調べなければならないほど、ダ・ヴィンチの法則は精度が高かったということになります。
現代にも通用する法則を500年以上も前に発見していたダヴィンチは、やはり”万能の天才”の名にふさわしいでしょう。
参考文献
Leonardo Da Vinci’s Famous ‘Rule of Trees’Debunked by New Study https://www.sciencealert.com/leonardo-da-vincis-famous-rule-of-trees-debunked-by-new-study NEW THEORY DISPROVES LEONARDO DA VINCI’S ‘RULE OF TREES’ https://www.bangor.ac.uk/news/2023-09-19-new-theory-disproves-leonardo-da-vincis-rule-of-trees Da Vinci’s “Rule of Trees”https://editions.covecollective.org/content/da-vincis-rule-trees元論文
Vascular optimality dictates plant morphology away from Leonardo’s rule https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2215047120