- 週間ランキング
最近は世界中で数多くのマッチングアプリが流行し、世界的に多くの人々が出会いを求めている印象を受けますが、実際には多くの人が上手く出会いの場を得られていないことの裏返しだとも言えるでしょう。
実際生物の進化の歴史を見ると、多くのオスが生涯を独身で終わらせることはそれほど珍しくありません。
遺伝学の研究によれば、どの時代でもほとんどのメスが子供を持つ一方で、男性の中で子供を持つのは一部だけだと言われています。
生物において繁殖の権利は強いオスが独占しており、ほとんどの弱いオスは繁殖の機会を得られないのが当たり前なのです。
ただ現代は、こうしたモテないという事実を自覚して、その悩みを多くの人と共有するコミュニティが作られているという点でこれまでと状況が異なっています。
20代後半を過ぎても童貞であることをネタにしている人たちはネットでもよく見かけ、恋愛関連の話題が出たときの鉄板ネタのようになっていますが、実際インセルの人たちは、恋愛は難しいものと感じており、この事実が精神的なストレスとなっているのは明らかです。
メディアはモテない人々の心理についてたくさんの推測をしていますが、実際に、モテないという状況がどのような心理的負担をもたらすかについて科学的に十分な研究はありません。
心理研究の場合、例えばインセルを研究しようとするなら「自分はインセルだ」と自覚している人たちを集める必要がありますが、そういう人たちがあまり研究に参加したがらないというのも研究しづらい理由の1つです。
しかし、意に反してモテない、パートナーが見つからないという状況が大きな心理的ストレス要因となるのは明らかです。
そのためモテない人たちが、どのような心理的特性を持つか調べることは、精神医学において治療のために重要な知見と言えます。
そのためコステロ氏は、「恋愛や性的な関係を持つことができないと感じることが、精神的な健康にどのような影響を与えるのか」を明らかにするためインセルについて調査することにしたのです。
コステロ氏ら研究チームによる調査は、SNSやポッドキャストを駆使して募った、151人のインセルと149人の非インセルの独身男性を対象に行なわれました。
調査で参加者らは、「独身である理由」に関するチェックリスト、および「自分がどれだけ結婚相手として魅力的であると感じるかを評価する質問」に回答しました。
さらに、「交際相手に求める最低限の条件」についてのアンケートに回答しました。
このアンケートでは、長期的な交際相手に求める15の特徴(ユーモアや知性など)について、1点から10点の間で最低点を示すよう求められました。
そして調査の結果、インセルのグループは精神的に非常に問題を抱えていること、認知に歪みがあること、被害者意識が強いこと、自閉症スペクトラム障害(ASD)の発生率が高いこと、恋愛のスキルが低いこと、デートに対して不安を感じていることが明らかになりました。
また、独身である主な理由としては、恋愛のスキルが低い、外見が良くない、社交的でない、恥ずかしがり屋という4つの点が多く挙げられました。
インセルの人々は自分の恋愛の価値を低く見積もりがちで、特に自分が女性にとって魅力的でないと感じる時に女性を嫌悪する傾向があります。
これには恋愛に対する不安が影響している可能性があり、インセルの人々が恋愛に対して自信をもつことで女性嫌悪の減少につながるかもしれません。
一般的にインセルの人々は恋愛の理想が高いと思われがちですが、調査の結果は反対でした。
モテない男性は女性に対する理想が高いわけではなく、むしろ相手してくれるならどんな子でもいいというような傾向の方が強かったのです。
さらに、インセルの人々は女性の恋愛の好みを誤解しており、知性や優しさよりも外見や財力が重要だと感じていることも明らかとなりました。(財力・外見は無視される要因ではありませんが、知性・優しさなどより絶対的に重要視される傾向ではありません)
また、世界的に見た自閉症スペクトラム障害(ASD)の有病率は0.62%なのに対し、インセルの人々の中では、18~30%と非常に高いこともわかりました。
(※ASDとは対人関係が苦手・強いこだわりといった特徴をもつ発達障害)
今回の結果は、インセルに分類されるモテない男性には恋愛に対する多くの誤解をしている可能性が示されました。
女性が結婚相手に経済的安定を求める傾向があることは紛れもない事実です。しかし、優しさや知性、ユーモアも非常に重要な要素です。
今後、コステロ氏ら研究チームは、このような誤解を解くため、また、インセルの人々のメンタルヘルスを支援するための介入策を考えることが重要だと考えています。
日本ではまだあまり話題になることのないインセルの人々が抱える問題ですが、年々大きく上昇し続ける未婚率からみるに、すでに日本でも同じような問題を抱えた人たちがいて、近い将来、同じような問題が浮き彫りになってくるかもしれません。
参考文献
New study delves into the mating psychology of involuntarily celibate men https://www.psypost.org/2023/09/new-study-delves-into-the-mating-psychology-of-involuntarily-celibate-men-185766元論文
The Mating Psychology of Incels (Involuntary Celibates): Misfortunes, Misperceptions, and Misrepresentations https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/00224499.2023.2248096