1970年代以降、雲は気候システムや気候変動に大きな影響を与えることが判明し、科学者は雲の研究に関する重要性を認識してきました(気象庁)。

普段雲の形状は大きさを気にすることはないでしょうが、実は地球の温度天気季節変化に大きく関わっているのです。

今回は、そんな雲が形成される要因についての解説します。

目次

  • 雲ができる原理とは?
  • 雲を作るエアロゾルの謎にせまる

雲ができる原理とは?

Credit:東京大学先端科学技術研究センター

雲はエアロゾルという大気中にある微粒子を核に水や氷が集まって出来た粒子です。

この粒子は太陽光を反射するほど大きいため、白く輝き雲として我々に認識されます。

コロナウイルスの話題でも、ウイルスがエアロゾル化したなどの言い回しを聞くことがあると思いますが、エアロゾルは特定の物質を指す言葉ではなく、個体や液体が大気中に広がった状態を表すものです。

自動車や工場など人間活動によって排出されるガスや、樹木や火山活動など自然界から出たガスなどが微粒子となって大気中に拡散していくと「エアロゾル」と呼ばれるようになります。

それぞれのエアロゾルはわずか0.5ミクロン~20ミクロンという小さな物質で、これらを核にし、雲のもととなる水や氷の粒子が出来上がります

このエアロゾルの大きさや性質、量などによって、できる雲のできやすさ、形や厚さは変わります。

例えば、飛行機雲(航跡雲)はなぜ形成されるのかというと、飛行機の通過した後には排気ガスが大量にエアロゾル化するため、これを核にして急速に細長い雲が生まれるためです。

Credit:photoAC

雲の量や性質により、地表に届く太陽の光の量は異なりますし、雨や雪の量も変わってきます。

そのため、どのエアロゾルがどのように雲の形成に影響するのか研究することは、地球環境のためにも重要です。

雲を作るエアロゾルの謎にせまる

Credit:ぱくたそ

先程も説明しましたが、エアロゾルにはさまざまな種類があります。

人為起源エアロゾルは、石炭や石油を燃やしたときに生じる二酸化硫黄、自然起源エアロゾルは黄砂火山から発生する粒子スギ花粉、植物から発生する炭化水素(テルペン)などです。

テルペンとは、樹木をはじめとした植物が干ばつなどのストレスにさらされるときに放出する物質です。

テルペンは松の木やオレンジなどから採取できる精油から得られます。

揮発性が高く香りがあるため、アロマオイルや芳香剤としてよく使用されています。

森林に足を踏み入れると「森の香り」を楽しめますが、これも大気中にテルペンがあることが要因です。

このテルペンを核としても、雲は形成されます

今後雲形成におけるテルペンの重要度は上がる

雲形成において、今後この植物由来のテルペンが重要になるといわれています。

その要因は各国が行う地球温暖化対策です。

現在、多くの国が石油や石炭などの化石燃料の使用を控え二酸化炭素の排出を減らそうとしています。

大気科学者であるルブナ・ダダ氏によると、「環境規制の強化により人為起源エアロゾルである二酸化硫黄が大幅に減り、今後も減少し続ける」と予測しています。

同氏は、「一方、気温上昇により植物が干ばつにさらされ、テルペンの濃度が上がっている」とも話しています。

つまり、二酸化硫黄の濃度は低くなるけれども、テルペンの濃度は高くなっていく状況です。

そのため、今後雲の形成予測を正しく行い、気象予測の精度を上げるためには、テルペンがどのように雲形成に寄与しているのか分析する重要性が高まっているのです

樹木などの植物の存在が、雲形成の要因として大きいものになるでしょう。

ただ、雲形成に関するエアロゾルの研究は難しい

Credit:photoAC

樹木から発生するテルペンのエアロゾルを研究することが、今後の気象予測に大きく影響することが分かりました。

しかし、エアロゾルの研究は一筋縄にはいきません。

エアロゾルは非常に小さな物質のため、大気にどのエアロゾルが存在するのか調べるためには基本的に電子顕微鏡などの機器が必要となります。

そのうえ、1つの雲の粒子に複数の種類のエアロゾルが存在する場合もあり、研究を進めることが難しい分野であります。

テルペンに関しても同じで、種類によっては大気中の濃度が十分ではなく不明瞭な部分が多くある状況です。

PSIの研究によりテルペンの研究が進んでいる

エアロゾル研究には難しい部分が多いのですが、クラウドチャンバーという装置により、テルペンの研究は進んでいます。

クラウドチャンバーとは、粒子の動きを観察するための装置です。

テルペン研究に使われたものとは異なるクラウドチャンバーですが、下の動画のように粒子がどのように動いているのか観察できます。

PSIの研究者らは、高精度に観察できるクラウドチャンバーを活用し、テルペンの中で「セスキテルペン」というものがより多くの雲を形成できる物質だと発見しました。

セスキテルペンは、モクレン、ミズキ、ミカンなどの樹木に多く含まれるため、これらの樹木が雲形成に大きく関わるのではないかと予測できます。

今後の課題

雲形成において、今後樹木の存在が大きくなることが判明しました。

しかし、雲の形成状況を正しく予測し、さらに気象予測の精度を改善していくためには、エアロゾルがどのように影響していくかなど、より進んだ大気分析の研究が必要です。

雲のでき方の予測は天気予報に大きく関わります。

雲形成に重要なエアロゾルの研究が進めば、今後100%当たる天気予報が可能になるかもしれませんね。

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参考文献

How Trees Influence Cloud Formation https://www.technologynetworks.com/tn/news/how-trees-influence-cloud-formation-378655 雲の微物理過程の研究 https://www.mri-jma.go.jp/Dep/typ/araki/cloud_microphysics.html 雲の種を探る https://www.metsoc.jp/kyoikuhukyu/resume/2010/Zaizen.pdf

元論文

Role of sesquiterpenes in biogenic new particle formation https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adi5297
情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 雲を作り出す要因は樹木にあった!?雲の形成において重要な物質とは