おしっこを我慢すると、嘘がバレにくくなるようです。

嘘は真実を話すときより、多くのことに気を遣い自分の行動を抑制する必要があります。しかし、多くの人はこの行動を上手く制御することができず嘘がバレてしまいます。

認知学・心理学の分野では、自分の行動を抑制する際、ある自制心を必要とするタスクを実行すると、同時に行う別の自制心を必要とするタスクを助けるという「抑制波及効果」という現象が知られています。

そこでアメリカのクレモント大学のエリーゼ・フェン氏(Elise Fenn)ら研究チームは、参加者に水をたくさん飲んでもらい、おしっこを我慢しながら嘘をついてもらうという実験を行いました。

すると嘘をつくときの瞬きの増加や声の上擦りなどが減少し、より自信を持って話すことができるようになったというのです。

一風変わった研究ですが、これはバレたくない嘘をつく際に役に立つ知見かもしれません。

この研究は、学術誌「Consciousness and Cognition」にて2015年9月11日に発表されています。

目次

  • 我慢をした後には、別のことにも我慢ができる「抑止波及効果」
  • おしっこを我慢すると嘘がバレにくい
  • 尿意を我慢することによる抑制波及効果は嘘以外でも生じる

我慢をした後には、別のことにも我慢ができる「抑止波及効果」

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嘘をつくときには、真実らしい話をでっちあげ、相手から疑われないよう振る舞わなければいけません。

その場では、真実を述べる状況よりも、自分の行動を俯瞰的にモニタリングし、行動を抑制する必要があります。

それゆえ、嘘をつく人は、相手の発言に対する反応が遅れたり、瞬きが多くなったり、手の発汗が増えたりします。

では、嘘をつくときの行動面の反応はどうすれば抑制できるのでしょうか。

研究チームは抑制波及効果(Inhibitory Spillover Efefct)に着目しました。

抑制波及効果とは、事前に行った自己制御の発揮が後続の(あるいは同時に行った)自己制御の能力を向上させる現象です

たとえば、嫌なことがあると衝動で高カロリーなお菓子を食べてしまう人は、湧き上がってくるネガティブな思考を抑えると、お菓子をより簡単に我慢できるようになります。

ほかにも、「このボタンは絶対に押さないでください」という行動抑制の課題を受けた後だと、リスクのある意思決定を延期しやすくなります。

そのため、この抑制波及効果を上手く利用できれば、嘘をついた時にうろたえてしまう反応も抑えることができるかもしれません。

では嘘を誤魔化すための行動は、どのような抑制行動と同時に行うと効果的なのでしょうか?

ここで、抑制波及効果の研究でよく注目されるのが尿意を我慢することです。

排尿衝動を抑える行動は、筋肉を抑制する必要が生じるため、ここから抑制波及効果で認知的な抑制も期待できるというのです。

そこで研究チームは、参加者が尿意を我慢するような状況に置いて、嘘をついたとき行動を上手く制御できるのかを検討しました。

実験には、大学生22名が参加しました。

まず参加者は、死刑や銃の規制、LGBTQの権利に関する項目を含む社会・倫理的な問題についてのアンケートに回答しました。

次に参加者たちを、①真実を述べる人と②嘘をつく人の2つのグループに分け、アンケートの回答についてのインタビューに答えてもらっています。

今回の実験では、インタビュー前にさらに参加者を以下の2つのグループに分け、尿意を感じる強さに差を設けています。

①50 mlの水を飲む
②700 mlの水を飲む

そしてこのインタビューの動画を、回答者とは別に集められた大学生118名に見せて、嘘をついているか真実を言っているか判断してもらいました。

もし尿意の我慢による抑制波及効果が、嘘をつくときの自制心を強めるならば、嘘がバレにくくなるはずです。

さて、おしっこを我慢することでインタビュー時の行動と第三者評価には変化があったのでしょうか。

おしっこを我慢すると嘘がバレにくい

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実験の結果、50 mlの水を飲んだ人と比較して、700 mlの水を飲んだ人は、尿意を強く感じており、インタビュー中に嘘をついてもより長尺で、具体的な話をすることができていました。

また第三者の評価において、700 mlの水を飲み、尿意を我慢していた人は、嘘がバレる確率が低くなりました。

具体的には、おしっこを我慢しながら嘘をついて人は、インタビュー中に自信をもって発言しているように見え、説得力が強く感じたと評価されました。

この結果から、嘘をつくときにおしっこを我慢すると、抑制波及効果が生じ、相手に嘘がばれにくいと言えるでしょう。

ではなぜ抑制波及効果が生じたのでしょうか。

研究チームは「尿意を我慢することによる身体的制御と嘘をつくために働かせる認知的制御は一見異なるように思えるが、脳内ではそれほど分離されていない。」

「実際に、感情コントロールや動作の静止など別の領域での抑制機能を働かせたときに活性化する脳領域は重なっていることが報告されている。」と述べています。

しかし今回の実験では、おしっこを我慢するときの抑制波及効果は嘘を述べた時のみ生じ、真実を述べている場合に、説得力が増すような現象は確認されていません

なので、真実を述べているときの説得力を高めるためにおしっこを我慢しても意味がないことは頭に入れておくべき事実でしょう。

尿意を我慢することによる抑制波及効果は嘘以外でも生じる

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おしっこを我慢することによる抑制波及効果は、嘘をつく以外の場面でも効果を発揮します。

学術誌「Psychological Sciece」に投稿された蘭トゥウェンテ大学のミルジャム・トゥク氏(Mirjam Tuk)らは、おしっこを我慢すると、無関係の課題遂行時の自制心が向上する現象を報告しています。

具体的には、尿意を我慢すると、目の前の利益よりも将来の利益を優先し、金銭的にリスクのある選択肢や高カロリーな食べ物を避けることができます。

この結果は、おしっこを我慢することで生じる抑制波及効果が、さまざまな領域で利用できる可能性を示唆しています。

しかし我慢が続いている状況で、目の前に自分の衝動を駆り立てる刺激が現れると、自制心の発揮が難しくなる可能性もあるはずです。

この現象は「自我消耗」と言われ、自制心は有限の資源であり、使うと減ってしまう考えに基づいています。

例として、テスト勉強を頑張った後に、いつもなら我慢できるお菓子を買ってたくさん食べてしまうケースなどが挙げられます。

研究チームはこの疑問に対して「おしっこを我慢するための行動的制御は、自動かつ無意識のプロセスで行われるため、自我消耗が生じないのではないか」と述べています。

今後、面接、ダイエット中や給料日直後の買い物など、自制心を発揮する必要がある時には、水をたくさん飲むのがいいのかもしれません。

あまりにも尿意が強い場合には、脳の抑制機能のリソースが尿意の我慢にすべて割かれ、逆効果になる恐れもあるのでご注意を。

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参考文献

Needing to Pee Actually Makes You a Better Liar, Study Finds https://www.sciencealert.com/needing-to-pee-actually-makes-you-a-better-liar-study-finds Full bladder, better decisions? Controlling your bladder decreases impulsive choices https://www.eurekalert.org/news-releases/823269

元論文

The inhibitory spillover effect: Controlling the bladder makes better liars https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1053810015300301
情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 おしっこを我慢しながら嘘をつくとバレにくい