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よくよく考えれば「反射」は不思議な現象です。
反射とは運動する物体が壁などに当たり、持っている運動量を逆向きに変換されることで起こります。
この現象はテニスボールやサッカーボールだけでなく、質量を持たない光子(電磁波)や空気の振動である音波でも起こります。
(※私たちが一般的に認識する可視光は電磁波の一種であり、放射線もラジオ波も同じ電磁波の仲間です)
たとえば壁に向かって「あいうえお(AIUEO)」と叫ぶと、それぞれの音は向こうの壁に順番に反射し、私たちの元に同じ順に「あいうえお(AIUEO)」と帰ってきます。
やまびこや、洞窟で声が反響するなどの現象は当然全て音の反射によって起きています。
そして近年の進歩した波動科学では、さまざまな波が持つ「時間」の自由度も操作できることがわかってきました。
自由度というのは言葉の通り自由な値をとることができる数値です。
ニューヨーク市立大学では以前から、この波の時間を操作する方法として「時間反射」の技術開発に取り組んでいました。
時間反射とは波を時間的に反転させることであり、たとえば音波に対して時間反射が起きると「あいうえお(AIUEO)」と発した声の「過去と未来」が逆転し、帰ってくるヤマビコは「おえういあ(OEUIA)」と聞こえるようになってしまいます。
また時間反射が起こると、鏡を見た時に自分の背中が見えるようになってしまうと考えられます。
これまで電磁波において時間反射を起こすのは困難だとされていましたが、最新の研究では電磁波が伝わる媒体の性質を急速に変化させることで、達成できることが示されました。
媒体の性質が変化した瞬間は、電磁波の運動量は保たれたままです。
しかし電磁波と媒体の関係が大きく変化し、瞬間的に周波数だけが変わってしまうのです。
例えるなら、水中を飛んでいるバネ(電磁波)の周囲が一瞬で水飴になると、バネそのものの運動量は変らなくてもバネの長さ(周波数)が変わってしまう状態に近いと言えるでしょう。
このときの周波数の変化度合いを適切なレベルにできれば、内部の電磁波の周波数を調節し、時間的な反転を起こした状態を瞬間的に生成することができるのです。
時間反射というと言葉を聞いて、タイムトラベルを使った壮大な歴史改変ドラマを連想した人にとっては、少しガッカリかもしれません。
しかし電磁波の上という局所的な世界だったとしても、波の性質に人工的な「時間的な反転」を起こせるようになったのは、大きな進歩と言えるでしょう。
ですが今回の研究は、さらに踏み込んでおり、時間反射の技術を使って通常ならばあり得ない、光子(電磁波)の衝突に挑んでいます。
これまでは、光子(電磁波)同士は通常の環境では基本的に衝突せず、お互いにすり抜けると考えられていました。
また光子同士が交差する状況では多くの場合「正面衝突」ではなく干渉波というシマシマ模様の新たな光のパターンを生成します。
この干渉パターンは光子同士の干渉によるものですが、衝突したわけではありません。
光子(電磁波)は物質粒子の間の力を伝える粒子であり、お互いの相互作用は極めて希薄だからです。
光子(電磁波)はさまざまな物質粒子と衝突を起こしたり複数の光子が一緒に移動することはありますが、光子同士の正面衝突は通常の環境ではまず起こりません。
しかし今回、ニューヨーク市立大学の研究者たちは、自分たちが開発した電磁波の時間反射を行わせる技術ならば、光子の正面衝突が可能ではないかと考えました。
発想のキッカケは、地震波や津波の研究でした。
地震波や津波のような波は、少なくとも理論的には、反対の周波数を持つ波を衝突させることで相殺したり弱めたりすることが可能です。
そのため過去の研究では人工的に発生させた振動で地震や津波の被害を軽減できるかどうかが検討されました。
結果、理論的には不可能ではないものの、実現するのは無理であることが判明します。
バイオリンの弦が作る音波くらいなら反対の周波数を持つ波を作ることができますが、地震や津波レベルで行うのは現実的ではなかったからです。
では逆に量子レベルの小さな波ならば可能なのでしょうか?
従来の常識であれば不可能だったのでしょう。
しかし研究者たちが過去に開発した時間反射を行う装置は、周波数が時間的に逆転した波を作ることができ、光子(電磁波)の正面衝突を起こせる可能性がありました。
そして実際に実験を行ってみたところ、光子(電磁波)同士が衝突を起こしていることが判明。
また装置を使って時間反射した電磁波の性質を制御してみたところ、新たに3種類の異なる衝突の形態が発見されました。
1つ目は非弾性のゴムボールが衝突するのと似たパターンで、2つの光子は互いにくっついてしまいました。
2つ目はビリヤードボールが衝突するパターンで、ある程度の弾性を持って、お互いが逆方向に跳ね返ります。
3つ目は高反発なボール同士がぶつかった場合で、衝突した2つの光子が前よりも大きな運動エネルギーを持って反対側に飛び去って行きます。
つまり、時間反射技術を使うことで不可能だと考えられていた光子同士の衝突を実現するだけでなく、衝突のパターンも制御できたのです。
また追加の研究で、2つの電磁パルスを互いに衝突させることで、電磁パルスを新たなものに「整形」できることが判明します。
この技術を使うと、ある情報を含んだ電磁パルスに追加の信号を衝突させて、別の情報を現わす電磁パルスにするなど、応用が可能です。
現在、この電磁パルスの「整形」はラジオ波レベルでは実現しており、研究者たちは将来的にはより高周波の電磁パルスにも適用することを目指しています。
もし電磁波を衝突させる技術が当たり前になれば、通信・ワイヤレス充電・立体映像・量子演算機など幅広い分野で応用可能になるでしょう。
参考文献
No longer ships passing in the night: these electromagnetic waves had head-on collisions https://www.eurekalert.org/news-releases/998279元論文
Observation of temporal reflection and broadband frequency translation at photonic time interfaces https://www.nature.com/articles/s41567-023-01975-y