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今回、潜水鐘の一部ではないかと指摘されているドーム状の物体は、1980年、フロリダ海峡で1622年に沈没したスペインの財宝船、サンタ・マルガリータ号の近くでダイバーによって発見されました。
以来40年以上は大型の鍋だと思われてきたその物体ですが、新たな研究によれば、実はサンタ・マルガリータ号の沈没から数年後、船の引き揚げ作業中に紛失した初期の潜水鐘の上部である可能性があるのです。
そもそも、潜水鐘とはどのようなものなのでしょうか。
潜水鐘(せんすいしょう)は、英語でダイビング・ベル(diving bell)と呼ばれ、かつて使われた潜水装置の一種です。
その名の通り、金属製の鐘のような形をした構造で、船舶から水中に吊り降ろされて使われます。
潜水鐘の中には、管を通して水上から空気を送ることも可能で、内部の気圧を外部の水圧と等しく保ち、水の浸入を防ぎながら、中に入った人間が呼吸を続けられる仕組みになっています。
これにより、近代的な機材を必要とせず長時間水中に潜ることができるのです。ただし、深度に応じて内部が高圧になってしまうため、減圧症のリスクがあります。
潜水鐘は18世紀にその原型が完成し、19世紀には一般的に使用されていましたが、現在は密閉型の潜水球やバチスカーフ(小型の深海観測用潜水船)が主流となったため、使用されていません。
海洋考古学者のショーン・キングスリー氏と、物体を回収したチームのメンバーである海洋考古学者のジム・シンクレア氏は、発見した物体は直径147センチもあり、料理用の大釜としては大きすぎると指摘しています。
また、この物体は2枚の銅板で作られており、周りには銅のリベットで固定された重厚な縁が取り付けられていました。
多くの人は鍋だと思ったようですが、シンクレア氏は、「過去に多くの古い木造船を見てきましたが、この物体が鍋のようには見えませんでした」とコメントしています。
そして、この不思議な物体は、当時の潜水鐘の特徴と一致しており、また、潜水鐘を海底に安定して固定するために使われたと思われる、多くの鉄の塊の近くで発見されていたのです。
ドーム状の部分は潜水鐘の上部を形成しており、その他の部分は木や皮で作られた骨組みを金属で覆った防水のパネルによって囲まれていたと考えれています。中には3人ものダイバーが同時に入れるほどの大きさだったようです。
キングスリー氏とシンクレア氏は、サンタ・マルガリータ号から宝物を回収する際に、このタイプの潜水鐘が使用されたという公式の記録は見当たらないとしながらも、1625年、フランシスコ・ヌニェス・メリアンというスペイン人が、著書でこのような潜水鐘を作ったと記述していたことを指摘しています。
メリアンは17世紀にサンタマルガリータ号から350枚の銀のインゴット、数千枚の金貨、そして8門の大砲を回収した人物でもあり、ダイビングベルの使用を示唆している可能性があるとも考えています。
以上のことから、シンクレア氏は、発見された物体がメリアンが以前に記述していた潜水鐘、もしくはこの地域で失われた他の初期型の潜水鐘の一部であると考えています。
キングスリー氏とシンクレア氏は、スペイン人がこの技術の先駆者であったと考えており、今回発見された潜水鐘は、1606年にスペイン人の発明家ヘロニモ・デ・アヤンツによって試作された潜水鐘(画像左)に基づいている可能性があると考えています。
このデザインは、後にベネズエラでの真珠採取に使用されています。
今回の発見に関する詳しい研究はまだ公表されていませんが、イスラエルのハイファ大学の海洋考古学者であるジョセフ・エリアフ氏は、「謎の物体が初期の潜水鐘の一部であった可能性が高い」と述べています。
また、「潜水鐘の継ぎ目は絶対に水を通さないようにしなければならないため、2つの部分の間にシーリング材やコーキング、または溶接のようなものがあった場合、仮説を裏付ける証拠となるでしょう」とも述べています。
今後、研究が進むことで、この点が明らかとなるかもしれません。
現代では、潜水鐘と似た機能を持つ「フーカー潜水」と呼ばれるものが潜水方法が存在しています。
フーカー潜水は、目・鼻・口を同時に覆うマスクに、水上からホースで空気を供給する送気式潜水の一種を指します。
また、このフーカー潜水と同様の潜水方法を使用した、フリーフローヘルメットと呼ばれる潜水方法もあります。
フリーフローヘルメットでは首下までをすっぽり覆う大きなヘルメットを被り、水上から中に空気を供給します。
最近では、レクリエーション用に改良され「シーウォーカー」などとして再登場し、日本の沖縄などで人気のアクティビティとなっています。
子供の頃、逆さにしたバケツや洗面器などを被ってお風呂に潜り、水中で呼吸してみたり、ストローを使って忍者のように水中で呼吸してみたりといった遊びをしたことがある人もいるのではないでしょうか。
そんな遊びを試した人は、この方法で海底まで行けるのだろうか? と考えたことがあるかもしれませんが、実際この方法は人類の歴史の中で試されていて、実用化されていたようです。
今はダイビングというとスキューバダイビングの機材を使って海に潜るのが一般的ですが、潜水鐘のようなアナログな方法で海を散歩するのもまた違った魅力がありそうですね。
参考文献
Mysterious 17th-century ‘cauldron’may be primitive submarine used to salvage treasure from a sunken galleon
https://www.livescience.com/archaeology/mysterious-17th-century-cauldron-may-be-primitive-submarine-used-to-salvage-treasure-from-a-sunken-galleon
ライター
榊田純: (さかきだ じゅん)動物、歴史・考古学、地球科学など、身近な疑問からロマン溢れる話題まで広く興味があります。どなたにでもわかりやすい記事を書くのが目標。趣味は映画、ゲーム、ウォーキング、ホットヨガ。とにかく猫が好き。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。