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イギリス料理をまずくした原因としては、農業の世界にも資本主義を取り入れた農業革命が訪れた点が挙げられます。
農業革命は産業革命とセットで起きた変化です。
産業革命により、都市では職人の代わりに工場で製品が大量生産されるようになりました。
これにより多くの労働者が必要となり、都市部の人口が増加します。都市人口の増加は、食料需要を高め、農村ではより効率的な農業生産が求められるようになります。
こうした流れの中で起きたのが農業革命です。
農業革命によって農村は食料の自給自足をやめ、必要な食料は輸入に頼り、商品として特化した農作物の生産を始めるようになります。
土地は農業経営者のものとなり、農村の共有地がなくなって立ち入りが違法とされ、木の実や鳥を捕まえることも窃盗罪に問われるようになったのです。
これにより多くの農民は土地と切り離された農業労働者になりました。
こうして誕生した農業労働者は農閑期に一時的に解雇され、都市で他の仕事に就くようになり、年間を通じて農村に住む人々の数が減少したのです。
これに伴い、農村の菜園や庭畑も維持されなくなり、村全体としての共同性と協同性も消失しました。
また、従来の農村では農閑期には祭りが存在し、多くの農民が祭りに参加していました。
しかし農業労働者が土地と切り離され、農閑期に農業労働者は解雇されるようになったので、これらの祭りも消滅しました。
食文化の継承は、土地と結びついた料理が、年間を通じて非日常の宴が訪れる環境で養成されていくものです。
祭りの消滅は、季節に合わせた料理を、土地特有の食材を用いて、多彩な調理法で食べるという習慣を奪ってしまいます。
そのため地域の食材の採取が制限されたり、祭りが消滅すると食文化は後世へ伝わらなくなってしまうのです。
また料理はすぐに消費され残り物は捨てられるため、工芸品のような職人技術と異なり後世に作品が形としては残らない点も食文化の継承を難しくする要因です。
これは音楽についても似た傾向がありますが、楽器と楽譜は結びつきが強く再現が容易ですが、料理のレシピはそれだけでは伝わらないニュアンスが多く再現が難しくなります。
これは私たちが、ネットで料理の作り方を調べた場合でも思い当たる問題でしょう。現在は動画もあるので一概には言えませんが、基本的に料理は人間関係を通じてでなければ上手く継承されないのです。
これにより料理の技術と伝統的なレシピが失われ、イギリス料理は衰退することになったのです。
余談ですが農業革命以前のイギリス料理は現在のイギリス料理よりもレパートリーが豊かであり、狩猟で手に入れていた鳥獣、野山で採取される果物、菜園で育てられる香草・豆類などが使われていました。
これらの食材は共有地となっていた野山や菜園で採取されて、季節によって供給が変動しました。
果物や香草は猟鳥獣料理のソースに使用され、イギリス料理に地域的な特徴と季節的な変化をもたらしていました。
酒やその加工品、特にりんご酒も消失した食材の中に含まれています。
これらの飲み物は保存性が悪く、輸送には不向きで、地域性と季節性が高かったため、在地の特産品でした。
香辛料類も興味深い要素で、多様な種類が使用されていました。
これらの香辛料は主に南欧やアジアから輸入され、高価な産品でした。
例えば、白胡椒と黒胡椒、ナツメグとメイスなど、微妙な風味の違いが料理に活かされていたのです。
しかし先述したように、これらの食材は農業革命による農村の衰退により、イギリス料理で使われることはなくなりました。
参考文献
小野塚 知二 (Tomoji Onozuka) –イギリス食文化衰退の社会経済史的研究 –論文 –researchmap https://researchmap.jp/search_Tomo/published_papers/31548055