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特に他者の行動を見て、まるで自分自身がそれと同じ行動を取っているかのように活性化することから、鏡写しの意を取って「ミラーニューロン」と名付けられました。
つまり、ミラーニューロンは他者の行動を見るだけで、自分がそれと同じ行動を取った場合のコピーを脳内に作り出しているのです。
では、このコピーは何に役立っているのでしょうか?
その一つに挙げられるのが、他人の状況を自分ごとに感じる「共感能力(エンパシー)」の生成です。
他者の行動を脳内で模倣することで、相手が「どんな感情を抱いているのか」「何の意図があってそうしているのか」を推測するわけです。
例えば、サプライズを受けて大喜びしている人を見れば、こちらも嬉しくなりますし、バンジージャンプをしている映像を見ると、まるで自分が飛んだかのようにゾクゾクすることがあります。
これらはミラーニューロンが、その行動を自らの脳内で再現しているからなのです。
そしてこれと別に、ミラーニューロンには他者の行動の身体的な模倣を促すという重要な役割があります。
定義の箇所で指摘したように、ミラーニューロンは「自分がある行動を取るとき」にも活性化します。
そのため、他者の行動を見ると同時に自分の運動スイッチも押され、その動作に必要な運動ネットワークが確立されて、脳が実際に筋肉への運動を促すのです。
例えば、井上尚弥選手の世界戦を見ていて、ボクシングの経験がないのにテレビの前でジャブやフックを打ったりしませんか?
これはミラーニューロンが同じ運動を私たち自身に促しているからだと考えられています。
動物行動学の知見からすると、運動の模倣には親や仲間の動作を真似て身体の使い方を学習し、新しいスキルを習得する役割があるといいます。
実際にマカクザルの赤ちゃんは、ヒトの表情を見て同じ動きを真似することが先行研究から示されています。
少し前置きが長くなりましたが、要するに、私たちが他人の歌を聞いて思わず口ずさんでしまうのは、ミラーニューロンが運動の模倣を促進していたからなのです。
では、ここで脳は「一緒に歌う」ことを私たちに促しているわけですが、どうして人類はそうしたメカニズムを進化させてきたのでしょうか。
それによって人類にどんな利点があったのでしょう?
一部の専門家によると、人類は言語を使って会話する以前から歌うことができたと言われています。
初期の人類は自然の音や野生動物の鳴き声を真似してリズムを作り、それに合わせて大声を出すことで、捕食者への威嚇や防護策として使ったというのです。
しかし最も重要な役割は、一緒に歌うことが仲間とのコミュニケーションや結束力を高めたことでした。
英オックスフォード大学のジェレミー・モンタギュ(Jeremy Montagu)氏は次のように話します。
「音楽は親子や仲間の絆を深めるのに大いに役立ちます。
反復的で退屈な仕事をしているときには合唱によって労働者の士気を高めたり、また狩りや戦の前に一緒に歌ったり踊ったりすることで結束力を強めました。
音楽は人々をグループとしてまとめることで、人類社会そのものを作り出すことに役立ったと考えられるのです」
カラオケや飲み会など、仲間と一緒に声を合わせて歌う機会はたくさんありますし、誕生日や結婚式、スポーツの試合前など、大切な場面でも私たちは必ず歌を歌います。
こうした仲間と一緒に歌おうとする脳の仕組みは、私たち自身の絆を深めるために進化し、そして今なお続いているのでしょう。
参考文献
Why Do We Feel The Urge To Sing Along To Songs We Know? https://www.scienceabc.com/humans/why-do-we-feel-the-urge-to-sing-along-to-songs-we-know.html The Story of Music is the Story of Humans https://neurosciencenews.com/music-human-evolution-6937/元論文
Music and mirror neurons: from motion to ’e’motion https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2555420/ How Music and Instruments Began: A Brief Overview of the Origin and Entire Development of Music, from Its Earliest Stages https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fsoc.2017.00008/full