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カメの甲羅には、角質でできた骨板があります。これは「スクート」と呼ばれ、木の年輪のように成長するにつれて層を重ねていき、その過程で環境の情報を時間ごとに保存していきます。
つまり、このスクートは過去の環境を記録する一種の「時系列の保存庫」とも言えるのです。
そこで今回、研究チームは、過去に放射性物質を蓄積したと考えられる場所で採取された4種類のカメとウミガメの甲羅を調査しました。
具体的には、1959年にユタ州のモハヴェ砂漠で採取されたカメの甲羅、1962年にテネシー州オークリッジで採取されたヒガシハコガメの甲羅、1978年にマーシャル諸島で採取されたアオウミガメの甲羅、そして1985年にサウスカロライナ州で捕獲されたリバークーター(主にアメリカの南部と東部に生息する淡水カメ)の甲羅です。
なお、比較のために、1999年に核実験とは関係のない地域であるアリゾナ州のソノラ砂漠で採取されたカメの甲羅も調査しています。
研究チームは、カメの甲羅に含まれるウランの量を調査しました。
その結果、アリゾナ州のソノラ砂漠のカメ甲羅を除いて、すべてのカメの甲羅には、周辺で行われた核実験と一致するレベルのウランが含まれていたことを発見したのです。
中でも最も注目されるのは、1978年にマーシャル諸島で捕獲されたアオウミガメです。
このアオウミガメは、マーシャル諸島のエニウェトク環礁で捕獲されました。エニウェトク環礁は、1946年から1958年までに67回もの核実験が行われた場所として、隣接するビキニ環礁とともに知られています。
このアオウミガメの甲羅は、核実験が終了してから20年後に採取されたものです。当然研究チームは、このアオウミガメが核実験の行われていた当時に生きていた可能性は低いと考えています。
それでも、その甲羅には核実験の影響で残ったウランが含まれていたのです。このことから、カメは核実験後にそのエリアで食物を摂取していた可能性が高いと結論づけられました。
今回の研究で研究者たちは、「カメの甲羅は木の年輪よりも過去の環境における放射性物質の指標として優れている可能性がある」と示唆しています。
また、この研究では、過去に実際核爆弾を投下された日本だけでなく、多くの核実験が行われたアメリカ自体の自然環境にも大きな影響を与えていることが明らかになりました。特に、核実験が行われた先住民の土地や、その周辺地域の生態系にも多くの影響が残っているのです。
さらに研究者たちは、組織が徐々に成長していく他の生物においても、放射性物質を追跡するのに役立つ可能性があるとしています。
例えば、サンゴ、サボテンの棘、軟体動物、鳥の羽なども過去の記録を保持している可能性があります。
今回の研究結果から、研究者たちは、様々な場所で採取された生物のデータ、土壌、植物、水などの情報を組み合わせることで、その地域の汚染がどのように広がっているのかを、より正確に知ることができると考えています。
日本では福島第一原子力発電所において処理水の海洋放出が始まっています。
核爆発での汚染だけでなく、このような現代的な状況においても、今回の研究結果が放射性物質による汚染の有無や追跡に役立つ可能性があります。
参考文献
Turtle Shells Keep a Record of Humans’ Nuclear History https://www.smithsonianmag.com/smart-news/turtle-shells-keep-a-record-of-humans-nuclear-history-180982805/元論文
Anthropogenic uranium signatures in turtles, tortoises, and sea turtles from nuclear sites https://academic.oup.com/pnasnexus/article/2/8/pgad241/7244772