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ロヨラ大学の研究チームは、65人の女性を対象に、単純な尿検査ではなく、カテーテルや注射で直接膀胱から採取した尿に最新の技術を用いて、細菌が存在するかを調査しました。
その結果、85種もの細菌が見つかったのです。また、その多くは腸内や膣内にもよく見られる細菌でした。
人体には数多くの微生物(細菌・真菌・ウイルスなど)が共生しており、こうした集団を微生物叢(マイクロバイオーム)と呼びます。
ロヨラ大が発見した尿路に存在するマイクロバイオームについては、現在は「ウロバイオーム(urobiome)」と呼ばれています。
これらのウロバイオームは、尿を培養する一般的な検査では、それまで確認した報告はほとんどありませんでした。
ほとんどという言い方が引っかかる方もいるかもしれません。
実はロヨラ大の研究が、初めて膀胱内の尿の細菌を発見したのではありません。この研究は、過去に報告された研究の再現実験なのです。
ウルフ氏は、ウロバイオームの真の発見者は、実は1970年代に尿が無菌ではないことを突き止めたロザリンド・マスケル医師にあると語っています。
このマスケル医師の研究は何十年もの間、無視されていたのです。
マスケル医師は公衆衛生研究所で臨床助手として働いていた際、女性に多く見れられる頻尿や排尿痛といった泌尿器症状を調べても、患者の尿検査の結果が無菌となることに疑問を抱き調査を行いました。
細菌は膀胱内で繁殖はしているものの、何らかの条件により検査結果に現れないのではないかと仮説を立てたのです。
そこでマスケル医師は、サンプルを一晩放置して細菌を繁殖させる一般的な検査方法ではなく、膀胱と同じ条件に近づけるべく、空気に触れない条件下で実験を行いました。
その結果、最初の実験ではサンプルの81%に細菌が検出されたのです。最も多かった細菌はラクトバチルス属と呼ばれる細菌で、これは腸内や膣内にも存在する細菌です。
この研究結果は長年の間、無視されていましたが、2010年、マスケル医師は自身の研究を再現するよう研究者に求める論説を書きました。
そして2014年、ロヨラ大学の研究チームが彼女の成果を再現したのです。マスケル医師は彼女自身の成果が再現するのを見届け、2016年に亡くなりました。
マスケル医師の研究を無視したことで、科学界は「30年以上の努力を失った」とウルフ氏は語っています。
これらの研究はすべて、女性のみを対象にした調査です。
女性の場合、尿路と膀胱の距離が近いため、細菌が膀胱へ侵入するなどの問題が起きやすく、今回の一連の研究も過活動膀胱 (OAB) などの泌尿器症状への対処として行われているものです。
こうした成果は、女性の抱える泌尿器症状の問題に対して助けになると考えられます。
そのため、男性の場合で膀胱内の細菌がどのようになっているかは、また別の問題となりそうですが、少なくとも人間の膀胱には通常の尿検査では検出されない細菌叢が存在することは明らかなようです。
これはまでの医学の常識では、尿路上の細菌が尿に交じることはあっても、健康な人の膀胱に細菌は存在せず尿は無菌という考え方が一般的でした。
しかし、尿路上に感染症などを持たない人の尿でも、細菌が存在することは一般的なようです。
ウロバイオームと呼ばれる膀胱の細菌叢が、飲尿などの行為に対して有害に働く可能性があるかどうかは、現在の研究では明らかにされていません。
ただ、今回の研究では女性が膣などに持つ細菌が尿路から侵入して膀胱の細菌叢に含まれることが示されており、腸内の細菌も存在しているようです。
そのため出したての尿は無菌であり、きれいという考え方は捨てた方が無難かもしれません。
参考文献
Is pee sterile? https://www.livescience.com/health/is-pee-sterile元論文
The natural history of urinary tract infection in women https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0306987709008238 Urine Is Not Sterile: Use of Enhanced Urine Culture Techniques To Detect Resident Bacterial Flora in the Adult Female Bladder https://journals.asm.org/doi/full/10.1128/jcm.02876-13 Molecular Diagnostic Methods Versus Conventional Urine Culture for Diagnosis and Treatment of Urinary Tract Infection: A Systematic Review and Meta-analysis https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2666168322008801#b0105