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さらに、この降着円盤はお風呂の栓を抜いたときにできる渦のようなもので、内側から順にガスがブラックホールの中へと吸い込まれています。
このときにガス同士の激しい摩擦が生じることで高速のジェットを放出し、これが数兆°Cという灼熱の温度に達するのです。
一般的に、原始星にガスが降着するときに生じる原始星ジェットは比較的低速ですが、超大質量ブラックホールのジェットは光のスピードに近い激しい現象であり、専門的には「相対論的ジェット」と呼ばれています。
超大質量ブラックホールから放たれた相対論的ジェットは、距離にして数百万光年にわたって伸びることもあるという。
そしてパルンボ氏によると、これまでに観測された最も高温の場所は「クエーサー3C273」であるといいます。
普通のブラックホールは観測で見えるほど明るい円盤は生じませんが、超大質量ブラックホールなどの場合、観測で見えるほど強く明るく輝く場合があります。
中でも非常に活発に活動しているものをクエーサー(活動銀河核)と呼び、これは宇宙で最も明るい天体とされます。
クエーサー3C273は、地球からおとめ座の方角に約24億光年離れた場所にあり、先に説明したように、超大質量ブラックホールに落ち込むガス同士の摩擦によって、とんでもない温度を放っています。
米東部ウェストバージニア州にあるグリーンバンク天文台での観測によると、クエーサー3C273の温度は約10兆ケルビン(摂氏にして10兆度以上)に達しているのです。
これが人類の観測史上、宇宙で最も熱い場所として記録されています。
また相対論的ジェットが放出された場合は、さらに温度が上昇していると考えられています。
この熱さに比べると、太陽中心の1600万℃でさえ、ぬるま湯くらいに感じられるでしょう。
またパルンボ氏は「ブラックホールが確実に熱い場所であることは確かだが、宇宙で災害が起きたときも非常に高温になる場合がある」と話します。
つまり、非常に高温となる宇宙の災害とはなんなのでしょう?
パルンボ氏によると、そのイベントとは2つの巨大な天体が衝突して爆発を起こすことだと話します。
2019年に発表された研究(Nature Physics, 2019)では、2つの中性子星(質量の大きな恒星が最晩年に至る天体)が衝突した場合、8000億℃の高温が発生すると推計しています。
それでもクエーサーの降着円盤よりはだいぶ冷たいものですが、もし中性子星とブラックホールが衝突した場合には、もっと大きな高温になる可能性があるようです。
ただいずれにせよ、こうした遠くの天体の温度を調べるのは非常に難しく、クエーサー3C273の温度推計にも不確実性が残っているとパルンボ氏は指摘します。
それもそのはず、天体の温度は家のお風呂の温度のようには測れず、その天体が放つ電波やX線を調べることで間接的に推定するしかないからです。
それでも現在開発が進んでいる「X線分光撮像衛星(XRISM)」などは、高温プラズマの速度や化学組成をこれまでにない精度で調べることが可能であり、この技術によって天体のより正確な温度が分かるようになるでしょう。
もしかしたら今後、クエーサー3C273を超えるホットな天体やイベントが見つかるかもしれません。
参考文献
What is the hottest place in the universe? https://www.livescience.com/space/what-is-the-hottest-place-in-the-universe元論文
Probing dense baryon-rich matter with virtual photons(2019) https://www.nature.com/articles/s41567-019-0583-8