- 週間ランキング
最近スイス・ローザンヌ州立美術学校(ECAL)が行った調査では、予定を立てる時に約46.7%がスマホで、約28.3%が紙で、約23.3%がパソコンのカレンダーを使っていることが報告されています。
デバイスのカレンダーは、リマインダーや予定内容の編集の容易さなど優れた機能が備わっているため、利用者が増えてきているのでしょう。
しかしそれでも紙のカレンダーを利用する人がいるのはなぜでしょうか? 紙には紙の良さがあるのは確かですが、では紙のカレンダーを使った場合とデバイスのカレンダーを使った場合で、利用者の計画の建て方やその達成度に違いは出るのでしょうか?
アメリカのドレクセル大学のヤンリウ氏らの研究チームは、紙とデジタルのカレンダーの予定の達成度を比較しています。
研究者らは、大学生129名を対象に、①実験者が用意した紙のカレンダーを使うグループと、②スマホのカレンダーを使うグループの2つに分け、実験期間(2週間)を過ごしてもらいました。
参加者には、実験開始初日にそれぞれ使用するカレンダーに今後の予定を書き込んでもらっています。
そして2週間後に参加者にメールを送り、予定の実行率を尋ねました。
結果、紙のカレンダーを使った人(約53%)は、スマホのカレンダーを使った人(約33%)と比べて、計画した通り予定を実行できたと回答しました。
では、なぜ紙のカレンダーはスマホのカレンダーよりも予定の実行率が高かったのでしょうか。
研究チームは紙とスマホのカレンダーで予定の実行率に差が出たのは、紙のカレンダーの方が全体像を把握しやすく、質の高い計画を立てることができたからではないかと考えました。
そこで実験2では、スマホのカレンダーを使用する人に、「全体ビュ―」を用いて、予定の全体像を把握し、他の予定との兼ね合いを意識するよう指示を出し、紙のカレンダーとの計画の質の違いを比較しています。
実験2に参加したのは、オンラインで募集した、家のリフォームをする予定のある一般人450名でした。
研究者らは、参加者を①紙のカレンダーを使うグループ、②スマートフォンのカレンダ―を使うグループ、③スマホのカレンダーを使う+予定を立てる時に全体ビューを使用するよう指示されたグループの3つに分け、家のリフォーム計画を立ててもらいました。
そして計画の質を評価するため、別で評価者を雇い、参加者が立てた計画がどれだけ詳細で具体的か、また現実性があるかなどを評価してもらいました。
結果、紙のカレンダーを使った人は、スマホのカレンダーを使った人と比べて、第三者評価でより質が高く、詳細な計画を立てることができていると評価されました。
また何も指示されずスマホのカレンダーで計画を立てた人よりも、スマホのカレンダ―で全体ビュ―を用いて計画を立てた人は、詳細な計画を立てることができていたことも確認されています。
この結果は、予定を立てる時に全体的な視点を持ち、他の予定の兼ね合いを考慮することを意識することが、デジタルのカレンダーの局所的な視点で予定を組んでしまうデメリットを和らげる方法として役立つことを示唆しています。
そして最後の実験3では、実験1のような自己申告ではなく、2週間で達成したいことを計画してもらい、実際の達成率を指標にしました。
実験3では、オンラインで募集した500名を対象に、①紙のカレンダーを使うグループと②スマホのカレンダ―を使うグループの2つに分け、自分で選んだ活動の2週間の計画を立て、どちらの方が計画達成率が高いかを比較しています。
結果、紙のカレンダーを使ったグループ(約43%)の方が、スマートフォンのカレンダーを使ったグループ(30.8%)よりも、計画の全体像が把握しやすいと回答し、計画達成率が高いことが分かりました。
これらの結果から、紙のカレンダ―は計画の全体像を考慮し他の予定との兼ね合いを考えやすく、計画の実行率が高いことが分かります。
今回の研究結果は、デジタルのカレンダーと比較して、紙のカレンダーは予定の全体像を把握しやすく、より詳細で質の高い予定を計画でき、計画達成率が高いことが示されました。
またスマホなどのデジタルのカレンダーであっても、「全体」ビューを使い、他の予定の兼ね合いを考慮し、詳細な予定を計画することもできます。
過去の研究では、デジタルのカレンダーの使用者は計画に関して過剰な自信を持ちやすい傾向があることが報告されています。
本研究の結果は、デバイスの使用者の計画に対する過剰な自信は、計画の全体像を把握できず生じている可能性を示唆しています。
研究チームは「紙のカレンダーは、デジタルのカレンダーと違い、予定をクリックして詳細を開く必要がなく、同時に複数の予定の詳細を確認できる。もしあなたがより詳細で質の高い計画を立てたいなら、紙のカレンダーを使うのはどうだろう」と提案を行っています。
デジタルのカレンダーはさまざまな表示モードがあり、より詳細な内容を書き込むための階層があります。これが便利な部分もありますが、逆にこうした機能が他の予定との兼ね合いや月の予定の全体像の把握を妨げてしまうのかもしれません。
「今後の研究では、今回検討した日常的な活動だけでなく、投資や家の購入などの資金計画を対象に、長期・短期と計画期間を変え、紙のカレンダーの優位性が存在するのかを検討したい」と研究チームは述べています。
参考文献
Defying the Digital Age: Paper Calendar Could Make You More Productive http://newyorkagconnection.com/story-state.php?Id=1191&yr=2022元論文
How using a paper versus mobile calendar influences everyday planning and plan fulfillment https://myscp.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/jcpy.1297 70% of Adults Rely on Digital Calendar. https://ecal.com/70-percent-of-adults-rely-on-digital-calendar