聖なる都エルサレムで”冥界への入り口”が見つかったかもしれません。

イスラエル・バル=イラン大学(Bar-Ilan University)の研究チームは、エルサレム近郊にあるテオミム洞窟(Te’omim Cave)にて、2〜4世紀に遡る大量のオイルランプや複数の人間の頭蓋骨を発見したと報告。

文献調査から、これらの遺物は死者を冥界から呼び戻すための降霊術「ネクロマンシー」に使われた可能性が高いことが判明しました。

この洞窟は古代人が死者と交信するための秘密の場所になっていたと考えられます。

研究の詳細は、2023年7月4日付で学術誌『Harvard Theological Review』に掲載されました。

目次

  • ランプや頭蓋骨は「岩場の隙間」に押し込められていた
  • 炎のゆらめきが「死者のメッセージ」になっていた?

ランプや頭蓋骨は「岩場の隙間」に押し込められていた

テオミム洞窟はBC4000年頃から人々によって利用されてきた長い歴史があります。

古代ローマ帝国の統治時代に起きたバル・コクバの乱(132~136年)では、ユダヤ人の反抗勢力がローマ軍から身を隠すためにこの洞窟が使われました。

洞窟自体の考古学調査は1873年から始まり、1970年代には洞窟の最奥部へと繋がる細い通路も見つかっています。

Credit: Eitan Klein and Boaz Zissu., Harvard Theological Review(2023)

研究チームは2010年から2016年にかけて洞窟の調査を行い、その中で陶器製のオイルランプ120点以上、人間の頭蓋骨3点を発見しました。

これらはいずれも紀元2〜4世紀の古代ローマ統治時代のものと特定されています。

ランプは中央の窪みにオイルを注ぎ、そこに紐を浸して火をつけていたようです。

Credit: Eitan Klein and Boaz Zissu., Harvard Theological Review(2023)

ところが奇妙だったのは、ランプや頭蓋骨が見えやすい台座の上などではなく、手の届きにくい洞窟の割れ目や隙間の奥深くに押し込まれていたことです。

調査チームもランプを回収するために一々フックの付いた長い鉄棒を使わなければなりませんでした。

これはランプが真っ暗な洞窟内部を見えやすくする照明具としては使われていなかったことを示唆します。

なぜ古代人はランプや頭蓋骨を洞窟の隙間などに置いたのでしょうか?

チームはその謎を解明すべく、当時の文化や習慣を記録した歴史的文献を調査。

その中で浮上したのが「ネクロマンシー(死霊術)」でした。

炎のゆらめきが「死者のメッセージ」になっていた?

ネクロマンシーとは、過去や未来の出来事を知るために死者の霊を呼び出して、交信する降霊術の一つです。

古代世界では、宗教的儀式の一環として多くの文化圏で行われてきました。

例えば、古代ローマやギリシアでもネクロマンシーが行われていたことが文献に記録されています。

まず、ネクロマンシーは深い坑道などがある地下洞窟でなされることが一般的でした。

地下洞窟であれば冥界に近く、より死者を召喚しやすくなると信じられていたのです。

さらに古代ローマでは、そうした冥界との交信口として設定した場所に人間の頭蓋骨を置いていたといいます。

ネクロマンシーで冥界から戻ってきた死者がその頭蓋骨に宿ると考えられたのでしょう。

Credit: Eitan Klein and Boaz Zissu., Harvard Theological Review(2023)

加えて、文献には炎のゆらめきが死者や精霊と交信するための重要な媒介になると記録されていました。

例えば、古代の占いでは洞窟の壁にゆらめく炎の形を見て、死者や精霊のメッセージが解釈されたという。

実際、ローマやギリシアで発見された古代の儀式場では、大量のランプが見つかることが多いのです。

こうした点から研究主任のボアズ・ジスー(Boaz Zissu)氏は、今回の発見について次のように解釈します。

「エルサレムのテオミム洞窟には、死者との交信場所として使用できる条件が完璧に備わっていました。

おそらく、ローマの統治下でエルサレムにやってきた異教徒たちが、新たな慣習の一つとしてネクロマンシーを持ち込んだのでしょう」

よって今回見つかったオイルランプや頭蓋骨は、死者を呼び寄せるための道具として使われたと考えられます。

そしてテオミム洞窟は、少なくとも紀元2〜4世紀までの間には、生者が死者と出会う”冥界への入り口”となっていたようです。

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参考文献

Cave Near Jerusalem Shows Signs of Use as a “Portal to The Underworld”https://www.sciencealert.com/cave-near-jerusalem-shows-signs-of-use-as-a-portal-to-the-underworld Placement of ancient hidden lamps, skulls in cave in Israel suggests Roman-era practice of necromancy https://phys.org/news/2023-07-placement-ancient-hidden-lamps-skulls.html Evidence of Necromancy during Roman era in the Te’omim Cave, Jerusalem Hills: Oil Lamps, Spearheads, and Skulls https://arkeonews.net/evidence-of-necromancy-during-roman-era-in-the-teomim-cave-jerusalem-hills-oil-lamps-spearheads-and-skulls/

元論文

Oil Lamps, Spearheads and Skulls: Possible Evidence of Necromancy during Late Antiquity in the Te’omim Cave, Judean Hills https://www.cambridge.org/core/journals/harvard-theological-review/article/oil-lamps-spearheads-and-skulls-possible-evidence-of-necromancy-during-late-antiquity-in-the-teomim-cave-judean-hills/973DF6E86AF609B8B4D1296D8292B8EB
情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 エルサレムの洞窟で「冥界への入り口」を発見!死者を呼ぶネクロマンシーの証拠か