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ところが今回、米カリフォルニア工科大学(Caltech)の研究チームは「2つの異なる顔を持つ不思議な星を見つけた」と発表しました。
見つかったのは恒星の終末期にあたる「白色矮星」で、球体の半面が水素、もう半面がヘリウムという異例の見た目をしていたとのことです。
なぜこんな奇妙な姿になったのでしょうか?
研究の詳細は、2023年7月19日付で科学雑誌『Nature』に掲載されています。
目次
白色矮星とは、恒星が進化の終末段階にとる形態の一つです。
かつて太陽のように輝いていた恒星は、年をとり核融合の燃料を使い果たすと大きく膨れ上がって「赤色巨星」となります。
赤色巨星はその後、大規模な質量放出によって外層を失い、あとには電子が高密度に圧縮した酸素や炭素のコア(中心核)が残ります。
これが「白色矮星」です。
コアの外側には水素とヘリウムの層がありますが、白色矮星の全質量に対して非常に少ない割合であり、核融合を再度起こして新たな光エネルギーを生み出すことはありません。
(例外的に外部から質量を獲得してⅠa型超新星を起こすことはあります)
そのため多くの白色矮星は、余熱だけで光を放っている状態であり、時間とともに冷えて、徐々に輝きを失っていき最後は黒色矮星となります。
ただし、黒色矮星になるほど冷えるにはとてつもない時間がかかるため、現在の宇宙にはまだ黒色矮星になった星はありません。
われらが太陽も50億年後に白色矮星に進化すると言われています。
新たに見つかった白色矮星は、米カリフォルニア州サンディエゴにあるパロマー天文台の「ツビッキー突発天体観測施設(Zwicky Transient Facility :ZTF)」により発見されました。
この白色矮星(ZTF J1901+1458)は地球から約130光年離れた場所にあり、質量は1.35太陽質量、半径は約2140キロで、誕生から1億年が経過していると見られます。
研究チームは観測データから、この天体が普通の白色矮星とは少し様子が違うことに気づきました。
自転周期15分という高速回転する中で表面の明るさが変化していることが確認されたのです。
そこでチームはハワイにあるW・M・ケック天文台で追加観測を行い、分光器によって白色矮星の放つ光の化学組成を調査。
その結果、表面の半分は水素、もう半分はヘリウムで構成されていることが判明したのです。
このように2つの異なる顔を持つことからこの天体は「ヤヌス(Janus)」と新たに命名されました。
ヤヌスとは古代ローマの神で、前と後ろに反対向きの2つの顔を持つ双面神として有名です。
しかし恒星でこのような奇妙なケースは前例がありません。
なぜヤヌスは2つの異なる顔を持つようになったのでしょうか?
チームはこの発見に当惑しており、まだ原因の解明には至っていませんが、可能性のある理論を提唱しています。
最も有力な説はヤヌスが白色矮星の進化の稀な段階を経ている真っ最中というものです。
研究主任のイラリア・カイアッツォ(Ilaria Caiazzo)氏は「すべてではないものの、白色矮星の中には表面が水素主体からヘリウム主体に移行するものが知られている」と説明。
「私たちはその進化の最中にある白色矮星を捉えた可能性がある」と続けます。
白色矮星が形成されると、重い元素は中心部に沈み、軽い元素 (水素が最も軽い)は上部に浮かびます。
しかし時間の経過とともに白色矮星が冷えると、それらの物質は互いに混ざり合い、内部のヘリウムが表層に広がるほど希釈される可能性があるようです。
他方で、この仮説が正しいとしても片面ずつバラバラに変化していく点は謎です。
これについてカイアッツォ氏は「磁場に答えがある」と推測します。
「白色矮星の周りの磁場は非対称であるか、どこか一部が他より強い傾向があります。
磁場は物質の混合を防ぐことができるので、磁場が一部の面で強い場合、元素の混合が抑制され、片面だけ水素が表面に残されるのかもしれません」
ただし、これらはあくまで仮説の域を出ておらず、謎の解明にはさらなる観測が必要です。
カイアッツォ氏は、今回と同じようなヤヌス型の白色矮星を他に見つけることができれば、2つの異なる顔を持つに至った原因も明らかにできるだろうと考えています。
参考文献
Two-Faced Star Exposed元論文
A rotating white dwarf shows different compositions on its opposite faces