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実験参加者は、記号のみを覚える人と、単語のみを覚える人の、2つのグループにランダムに分けられ、最後に覚えている記号(あるいは単語)を書き出してもらいました。
実験の結果、記号は単語よりも思い出すことができる単語の割合が約10%以上も高いことが判明しました。
しかし単語と記号の記憶のしやすさには相関関係が見られませんでした。
つまり覚えやすい単語には必ずしも覚えやすい記号が対応し、逆に覚えやすい記号にも必ずしも覚えやすい単語が対応するわけではありませんでした。
この結果は記号と単語の知識が、記憶成績を変えている可能性が低かったことを意味しています。
後続の実験2では、実験1で確認された記号が単語よりも覚えやすい現象が記憶のしやすさによるものなのか、思い出しやすさによるものなのかを調べるため、覚える時と思い出す時の情報の形態が一致している場合(単語-単語 / 記号-記号)と不一致の場合(単語-記号 / 記号-単語)で覚えやすさの現象に変化が起きるかを検討しました。
実験参加者は単語(あるいは記号)を覚えた後に、PC上に提示される単語(あるいは記号)に対し、覚えたものかどうかを判断してもらいました。
実験の結果、最初に情報を記憶する際に、記号で記憶した方が、単語で記憶するよりも、約30%多くの情報を記憶し、思い出すことができました。
これはつまり、記号は思い出しやすいのではなく、覚えやすい(記憶時に記号が単語よりも効率よく学習できる)ことによって生じる可能性を示唆しています。
さらなる後続の実験で、研究チームは記号が画像と同じく、文字と視覚的イメージの2つの情報を持っており、単語よりも記憶されやすいのではないかいう仮説のもと、実験を行っています。
実験では、単語、記号に加え、画像を実験刺激として用意し、記号は、画像と比較しても記憶に対して同等のプラスの効果があることが確認されています。
また記号に対する親しみ深さ(普段どれだけよく見るか)が記憶課題での正答率と相関しないことも確認されています。
これらの画像と記号の記憶効率が同等であることを示した結果は、①記号が文字情報のみならず、視覚的イメージの2つの情報によって処理されていることと②記号が親しみ深さなどの知識の影響は関係なく、記憶が効率的にできる特性を持っていることを意味しています。
今回の研究結果は、記号が単語よりも記憶されやすく、簡単に思い出すことができることを示しました。
論文では、画像とは異なり、記号が文字よりも記憶に残りやすい理由として、文字だけでなく、具体的な視覚的イメージも持つことと、独自の形状を持っていることで区別しやすいことの2つの可能性があると述べられています。
画像は文字と視覚的イメージを持ち、単語より記憶効率が良いことは前述しましたが、画像は時に具体的でないイメージを伝達し、抽象的な概念を表すことがあります。
この時に画像は視覚的イメージを強く伝達しますが、文字の情報が欠けてしまう、あるいは一義に定まらない場合があるかもしれません。
たとえば下記の画像は何を意味するでしょうか。
筆者はこれを「女性の後ろ姿」という意味で捉えましたが、人によっては「山を撮った写真」「荒野の写真」など異なる情報を感じ取る可能性があります。
このように画像は複数の情報を含むため、一義の意味を与えたり、文字情報を保持させることが難しくなります。
対して、記号は「dollar –$」のように、一義の文字が対応する関係性を持っています。
この記号と文字の関係性は、記号を見たときに、一義的な文字と具体的な視覚的イメージをもたらし、記憶効率が高めると考えられます。
さらに記号は単語と比較して、より独自の形を持ち、単体で意味を成すため、記憶に残りやすいと考えられます。
例えば単語の「dollar」は、単語では6つの文字が必要なところを、記号の場合は「$」の1文字で済み、別の記号と混同することなく表すことができます。
そのため、記憶容量が小さく、文字に比べて認知的な負荷が少ない可能性が考えられます。
研究チームは「記号は単純な形状で構成されており、色を必要としないため、効率的な情報伝達手段として機能している」と述べています。
元論文
Symbol superiority: Why $ is better remembered than ‘dollar’. https://philpapers.org/rec/ROBSSW-5