これからの蒸し暑い夏は「雷雨」が多くなる季節です。


雷の発生する仕組みは大抵のことが分かっていますが、その複雑な点についてはまだ不明な箇所が多々あります。


そんな中、欧州宇宙機関(ESA)は宇宙空間から撮影に成功した「雷の動き」を初公開しました。


映像はESAが新たに開発した雷観測器・Lightning Imagerにより撮影されています。


研究者いわく「この撮影技術を使うことで、人命やインフラを危険にさらす激しい雷雨の発生をより早く、より正確に予測できるようになる」とのことです。




目次



  • 新たな雷観測器・Lightning Imagerはどうやって働く?
  • 宇宙から見ると「雷雨」はどんな動きをしていた?

新たな雷観測器・Lightning Imagerはどうやって働く?


Credit: EUMETSAT –MTG LI Animation(youtube, 2022)

Lightning Imagerは、欧州気象衛星開発機構(Eumetsat)が運用する気象衛星・メテオサットに搭載された雷観測器です。


地球から約3万6000キロの距離に位置し、昼夜を問わず、地球大気中の閃光や発光現象を検出することができます。


Credit: EUMETSAT –MTG LI Animation(youtube, 2022)

Lightning Imagerは4台のカメラで構成され、毎秒1000フレームのレートで撮影でき、ヨーロッパ、アフリカ、中東、南米の一部を主要な撮影対象とします。


ESAの地球観測プログラム・ディレクターであるシモネッタ・チェリ(Simonetta Cheli)氏によると、4台のカメラの撮影視野を合わせると地球の片面の84%をカバーできるとのことです。


Credit: EUMETSAT –MTG LI Animation(youtube, 2022)

各カメラは地球大気で起こる様々な発光現象を撮影し、それらの収集したデータをリアルタイムで分析しながら、雷だけを正確に識別して、それ以外のノイズとなる情報を除外。


そして雷のタイムラプス画像と地表の写真を組み合わせて、一連の動画として作成し、地球に転送してくれます。


Credit: EUMETSAT –MTG LI Animation(youtube, 2022)

研究者らは雷雨の動きを宇宙から俯瞰で見ることで、その発生タイミングや移動傾向をより正確に捉えられるようになると考えます。


こうした情報は気象予報士たちの心強い味方となり、人命やインフラを危険にさらす前に、迅速かつ的確に避難指示をすることができるようになるでしょう。


それでは実際に、ESAがLightning Imagerの試運転で撮影した、宇宙から眺めた地球上の雷発生の様子を見ていきましょう。


宇宙から見ると「雷雨」はどんな動きをしていた?


まず最初は地球上で最も雷の多い地域のひとつである「中央アフリカ」を撮影したものです。


ESAのYou Tubeチャンネルでは2023年6月7日午前0時〜6月11日午後23時59分までの5日分までの映像が公開されています。


Credit:Central Africa – the most active lightning region in the world/ESA

動画では、中央アフリカが他の地域に比べて、圧倒的に雷の発生数が多く、雷を伴った雲が東からの気流に乗って北西に移動しているのが確認できます。


この撮影では特に、午後から夕方にかけて雷の発生率が高くなることが分かりました。


続いては「アフリカ北部とヨーロッパ」を中心に撮影した映像です。


公開された動画全体のデータは2023年6月2日午前0時〜6月6日午後23時59分までの5日分で、撮影時には大きな高気圧に覆われていたため、雲がほとんどありませんでした。


(高気圧では下降気流となるため雲ができにくく、反対に低気圧では地表から上昇気流が生じるため上空に雲が発生しやすい)


Credit:North camera – full field of view/ESA

その中でも雷雨がよく集中しているのが、南ヨーロッパの地中海周辺です。


ここでは暖かい6月上旬に入ると、毎日のように局所的な雷雨が発生するといいます。


これらの雷雨は日中に太陽が地面を温めることで形成され、日没後には比較的早く消滅するという。


そして最後はアフリカ西部と南米の東側を含む「大西洋上」のエリアです。


動画全体では先と同じく、2023年6月2日午前0時〜6月6日午後23時59分の5日分を示しています。


Credit:West camera – full field of view/ESA

ここでは、熱帯性の雷雨のクラスターが東(右下)から西(左上)へゆっくり移動する「熱帯収束帯(ITCZ)」が映し出されています。


熱帯収束帯とは、大気の循環の中で赤道付近に形成される低気圧帯のことで、雷雨がとても発生しやすい条件が整っています。


6月〜11月にかけて大西洋の海水温が十分に高まれば、雷雨の一部がハリケーンに発達するとのことです。


2024年には運用開始


以上の映像はLightning Imagerの試運転の初期結果であり、まだ改良の余地があるといいます。


それでも地上からの雷観測が難しい遠隔地や海洋上において、Lightning Imagerは多大な力を発揮するでしょう。


こうした情報は地上にいる人々の安全を守るだけでなく、海洋上を飛行する航空機の雷回避にも役立つと期待されています。


Lightning Imagerは2024年初めには実際の運用を開始する予定とのことです。


こちらは前ページで紹介した「Lightning Imager」の機能説明の映像になります。



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参考文献

Incredible Video: A Swarm of Raging Thunderstorms, as Seen From Space
https://www.sciencealert.com/incredible-video-a-swarm-of-raging-thunderstorms-as-seen-from-space
European satellite strikes lightning
https://www.esa.int/Applications/Observing_the_Earth/Meteorological_missions/meteosat_third_generation/European_satellite_strikes_lightning
For the first time over Europe and Africa, the Lightning Imager (LI) provides real-time data on the location and intensity of lightning flashes.
https://www.eumetsat.int/mtg-lightning-imager
情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 宇宙から見た「雷発生の様子」!ESAの新しい雷観測器の初公開映像