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その鳴き声はまず「ジジジ、ジワジワジワ」というイントロから始まり、メインの「オーシンツクツク」という前半パートと「ツクリヨーシ」という後半パートに分かれます。
研究者の方はこの擬音で表現していますが、皆さんにも同じように聞こえるかは分かりませんね。
実際にツクツクボウシの音声を聞いてみましょう。
(※ 音量に注意してご視聴ください。出典:セミの家)
前半パートは確かに「オーシンツクツク、オーシンツクツク」と聞こえます。
その反復が徐々に速まって、途中「ツクリ〜」で一度繋いでから、後半パートの「ツクリィヨーシ、ツクリィヨーシ」に移り、最後「ツクリィヨーシ〜」と伸ばしてフィニッシュしているように聞こえますね。
こうした複雑なパート変化はセミの中でも珍しく、その生物学的意義は明らかになっていませんでした。
もちろん、鳴き声そのものはメスへのアピールが主な目的でしょうが、パート分けする理由はわかっていません。
しかし他方で、ツクツクボウシの鳴き声は「オス間のコミュニケーション」の側面も非常に強く、特に彼らは他のオスの鳴き声に対し「ギーッ」という合いの手を入れることが知られています。
そこで研究チームは今回、前半と後半の各パートが他のオスに異なる反応を引き起こすのではないかと仮説を立て、検証を開始しました。
まず最初に野生のツクツクボウシのオスを捕獲し、その鳴き声を録音しました。
次に録音した音声を編集して、通常の「鳴き声全体」の他に「前半パート」「後半パート」のみで構成される音声サンプルを作成。
それぞれをループ再生しながら別のオスに聞かせ、音声サンプルに対する「合いの手」の数がどう変化するかを記録しました。
その結果、前半パートを含む鳴き声全体と前半パートのみの音声に対し、より多くの合の手を発して応答することが分かったのです。
逆に後半パートの「ツクリヨーシ」のみでは、合いの手が大きく減っていました。
このことから、前半パートの「オーシンツクツク」のパターンが、別のオスの合いの手を促進していることが伺えます。
これは鳴き声のパートごとに他のオスの行動が変化することを実証した初の成果です。
私たちの耳から聞いても「オーシンツクツク」が全体の主要パートであることが分かります。
セミたちはきちんとこのメインのパートを聞き分けて合いの手を入れ、最も盛り上がっていたのです。
これまでの研究では、「ギーッ」という他のセミの合いの手は、合唱のような効果を生むことで単独の鳴き声よりも強くメスにアピールできる可能性が指摘されています。
このことから、鳴き声をパート分けすることには、メスへのアピールや、オスとの合唱において必要な意味を持つ可能性があります。
しかし研究チームはまだ「オーシンツクツク」と「ギーッ」の組み合わせの実際的な効果までは調べておらず、上手くパートに合わせてセッションすることが、メインボーカルにのみ利益のあるものなのか、合いの手を入れたオスにも利益があるのかはわかっていません。
チームは今後、オスのセッションに対するメスの行動反応についても探っていきたいと話しています。
セミの成虫が地上で生きられる期間は平均して1週間〜10日、天敵に襲われなければ、長くて1カ月ほどです。
その間に早くパートナーを見つけて子孫を残すために、ツクツクボウシはオス同士でセッションを工夫している可能性は大いにあるでしょう。
参考文献
ツクツクボウシの鳴き声がパートごとに異なる意味を持つことを初実証 https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/945元論文
Difference in the responses of male cicada Meimuna opalifera to the two parts of conspecific calling song https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/ens.12550