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そして調査の結果、母イルカは子供に話しかけるときにのみ、声のピッチを高くしたり音域を幅広くする甲高い鳴き声を発することが分かったのです。
特に最も高くなる声はもはや人間の耳には聞こえない音域に達していました。
この鳴き声は一人でいるときや他の大人の仲間に話しかけるときには見られませんでした。
研究主任の一人で、スコットランド・セントアンドリュース大学(University of St Andrews)の生物学者ピーター・タイアック(Peter Tyack)氏は「この鳴き方は調査対象とした19頭の母イルカすべてで確認されました」と話します。
よって、これは母親が子イルカにのみ使う「赤ちゃん言葉」の一種であると結論されました。
こちらが実際の「赤ちゃん言葉」の音声です。
では、そもそもなぜ母親たちは赤ちゃん言葉を使うのでしょうか?
母イルカが「赤ちゃん言葉」を使う正確な理由は定かでありませんが、研究者らは「子供の注意力を高めて、発音や会話の学習向上を促しているのではないか」と考えています。
1980年代の研究では、ヒトの幼児は大人の平常時の声に比べて、音域が広く高い音声により注意を払うことが指摘されていました。
また「赤ちゃん言葉」を使う動物は報告例が少ないものの、他にもいくつか知られています。
例えば、アカゲザルの母親は、同じように子供の注意を引きつけるために鳴き声のピッチを高くする傾向があります。
また鳥類のキンカチョウもヒナに声をかけるときに音程を高くしたり、鳴き声を遅くすることが知られています。
これらを踏まえると、イルカの「赤ちゃん言葉」にも子供の注意力を高めて、発声学習を促す効果があることが予想されます。
本研究には参加していない米ジョージタウン大学(Georgetown University)の海洋生物学者で、イルカの生態に詳しいジャネット・マン(Janet Mann)氏もこの仮説に同意しています。
「子イルカにとって『ああ、ママは今ボクに話しかけているんだ』と知ることは、単に母イルカが自分の存在を他の仲間に知らせるのとは違って、本当に重要なことなのです」
つまり、母親が「ボク」にこそ話しかけていると思うことで、発声への注意力がより高まり、言語能力の上達も早まるのかもしれません。
参考文献
Dolphin moms use baby talk to call to their young, recordings show https://phys.org/news/2023-06-dolphin-moms-baby-young.html Dolphins also use baby talk to bond with their young https://newatlas.com/biology/bottlenose-dolphins-baby-talk-calves/ Bottlenose Dolphins Communicate in “Motherese” with Their Offspring https://www.whoi.edu/press-room/news-release/bottlenose-dolphins-communicate-in-motherese-with-their-offspring/元論文
Bottlenose dolphin mothers modify signature whistles in the presence of their own calves https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2300262120