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しかし、そのような液体のエサを運ぶのは困難であり、生物学者たちはこれまでアリの液体の運搬方法に注目してきました。
アリたちは次の2種類のユニークな方法で、液体を運搬するようです。
1つ目は、「液体を胃の中に貯めて運ぶ」というもの。
これは多くのアリたちが採用している運搬方法であり、巣に戻ると胃の中の液体を吐き出して、他の働きアリや女王アリ、幼虫に受け渡します。
2つ目は、「液体を大顎で挟んで運ぶ」というもの。
これは一部のアリしか行わない方法であり、液体の表面張力を利用して極めて少量(トゲオオハリアリの場合は約0.001mL)の液体を持ち運びます。
そして沖縄産トゲオオハリアリ(Diacamma cf. indicum)は、アリの中でも珍しく両方の運搬方法を行うことができます。
しかし彼らが2種類の運搬方法をどのように使い分けているのかは、明らかになっていませんでした。
そこで藤岡氏ら研究チームは、トゲオオハリアリがエサの成分によって運搬方法をどのように変化させるのか観察することにしました。
最初の実験では、砂糖水の糖度(10~60%)を変えてトゲオオハリアリの行動を観察しました。
その結果、トゲオオハリアリは低糖度の時に「飲む行動」を頻繁に行い、高糖度の時に「つかむ行動」を頻繁に行いました。
ではトゲオオハリアリは、砂糖水の何を感知して運搬方法を変化させているのでしょうか?
一般的に液体(ここでは砂糖水)の糖度が高ければ高いほど、粘度も高くなります。
そのため研究チームは、砂糖水の「粘度」が関係していると予想しました。
そこで次の実験では、10%砂糖水の粘度だけを40%砂糖水と同等まで上昇させたエサを作り、10%砂糖水の通常タイプと粘度上昇タイプでトゲオオハリアリの行動を比較しました。
その結果、トゲオオハリアリは、通常タイプよりも粘度上昇タイプの砂糖水に対してつかむ行動をよく行うようになりました。
このことは、予想通りトゲオオハリアリが、エサの粘度によって飲む行動とつかむ行動を使い分けていることを示しています。
また、トゲオオハリアリは他の昆虫と同様、糖度が上がって粘度も高くなるほど、砂糖水を飲むスピードが遅くなることも分かりました。
この結果から、トゲオオハリアリは、飲むのに時間がかかるエサを採餌する際に、つかむ行動に切り替えていると考えられます。
トゲオオハリアリはまず液体のエサを飲んでみて、そこで粘度を精査し、その粘度に応じて運搬方法を切り替えている可能性があるようです。
さらに今回の研究では、1度の採餌で1匹のアリが持ち帰る砂糖の量(カロリー)の推定も行われました。
その結果、糖度が高い(=粘度も高い)時には、つかむ方が飲むよりも持ち運べる量が格段に増えると分かりました。
つまりトゲオオハリアリは、糖度と粘度が高い時につかむ行動へ切り替えることで、採餌の効率性を上げていたのです。
今回の研究では、トゲオオハリアリが粘度によって運搬方法を変化させていることが初めて明らかになりましたが、その切り替えは採餌効率を高めるものでした。
道端で行列を作っている小さなアリたちのちょっとした行動の違いには、合理的で確かな理由があったのですね。
藤岡氏は今後、巣までの距離や天敵の存在でアリの反応がどのように変化するのか、またなぜ液体のエサをつかめるアリとそうでないアリがいるのかを調査したいと考えています。
参考文献
液体をつかむ?アリのユニークな液体の運搬は、餌の粘度が鍵! http://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id1102.html元論文
Diacamma ants adjust liquid foraging strategies in response to biophysical constraints https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2023.0549