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近年身近になってきたスマートフォンの無線充電(ワイヤレス給電)は単純な「ファラデーの電磁誘導」によって電気を伝送できます。
これは無線充電スタンドとスマホまでの距離がゼロに近い為可能な訳ですが、数メートルを超える様な無線送電には「マイクロ波」や「レーザー」を用いた新たな技術開発が必要とされています。
今回のカルフォルニア工科大学SSPPの発表では「マイクロ波」を用いたエネルギー伝送を試み、成功したことが報告されています。
革新的だったことを端的に述べると「①宇宙空間での無線送電を実証したこと。②地上へのパワー照射を成功させたこと。」です。
①宇宙空間での無線送電を実証したこと。
送信機アレイから約1フィートの距離にある2つの独立した受信機アレイでエネルギーを受信し、直流(DC)電気に変換して、その電力で1対のLEDを点灯させることに成功しました。
アレイとは電波を送受信するアンテナの集合体です。
送電距離は1フィートで地上までの距離と比較すると短いように感じますが、これは宇宙空間で無線エネルギー伝送技術の全工程「発電
コスト削減の為、低コストのシリコン技術で作られたカスタム電子チップで駆動する柔軟な軽量マイクロ波電力伝送器のアレイを用いて、過酷な宇宙空間で無線エネルギー伝送を成功させたことは大きな成果です。
②地上へのパワー照射を成功させたこと。
送信機アレイによって電磁波の干渉を制御し、希望する場所にパワーを集中させることができます。
MAPLEでは宇宙空間から地表(ムーア研究所の屋上)へ向けてのエネルギー照射も行われました。
照射されたエネルギーはムーア研究所の屋上で予想通りの時刻に、予想通りの周波数で検出しました。
地上と上空や宇宙を行き交う信号はGPSを初め、航空機無線など様々な周波数の信号が飛び交っています。予想していた時刻に予想通りの周波数が検知されることはこの実験の正確さが担保されたと言えるでしょう。
今回、SSPPの発表では、宇宙空間から地表へ向けてのエネルギー照射に関しては送電量が記されていない為、実際に何W地上にエネルギーを照射できたのか定かではありません。
JAXAは地上で無線エネルギー伝送実験を行っており、2015年に伝送距離55 m、送電出力約1.8 kW、受電出力330~340 Wを達成しています。300 Wというと、ゲーミングPCや小さめのホットカーペットの電力です。
JAXAによれば、宇宙太陽光発電システム(SSPS)の課題として、宇宙空間への大量輸送技術、大規模宇宙構造物の構築技術の確立に加え、送電の際に用いるマイクロ波やレーザーが人や動物の健康に与える影響や航空機、電子機器や自然大気に与える影響があげられており、これは今後も十分に調査する必要がありそうです。
宇宙空間で巨大な発電所を運営することは、言ってみれば国際宇宙ステーション(ISS)を運用するようなもの、たとえISSよりは小規模で、無人であったとしても「運用、維持、廃棄のコスト」は他のエネルギー源に比べて高いことは想像に難くありません。
周波数(マイクロ波の場合)の確保、軌道位置、地上受電サイトの場所の確保等、法整備や地上基地建設に伴う区画整理など、司法・行政面でもやるべきことは沢山あると思われます。
JAXAは100万 kW級の大規SSPSの実現目標時期を2030年代としていましたが、現時点で研究計画を見直しており、実現可能時期は予想が難しいようです。
では、なぜその様な困難な宇宙太陽光発電に挑戦するのでしょうか。わざわざ、宇宙で発電する意味はあるのでしょうか。
三谷友彦 准教授(京都大学 生存圏研究所 生存圏開発創成研究系 生存圏電波応用分野)の資料によれば、宇宙太陽光発電は太陽光の強度がつよく、太陽光角度や天気による制限を受けない為、発電出力は地上の約2倍、電力量でみれば約9倍に達する見込みがあると報告されています。
また三谷先生の資料では、地球上へのエネルギー伝送が現実的に難しくとも、宇宙空間での発電には、宇宙空間での利用が真っ先に期待できるといいます。
例えば、雨雲など、水蒸気を含む大気が存在しない月面においてはマイクロ波のエネルギー減衰が少ないため、宇宙太陽光発電エネルギーを導入しやすい可能性があります。
地球よりも大気の薄い火星でも同様に、このシステムは導入しやすい可能性があります。
火星はこの薄い大気のために、探査飛行機を飛ばす場合、その機体重量を地球の33分の1近くまで落とさなければなりませんが、宇宙太陽光発電による無線エネルギー供給を導入できれば電源ユニットを最小限に抑えることができるため、その活躍が期待できます。
また、宇宙太陽光発電を電柱のように経由して日光の届かない位置で活動する探査ローバー等へのエネルギー供給が可能になるかもしれません。
月や火星で活躍する探査ローパーは、太陽光発電で稼働しているため夜時間は基本的に活動することができませんが、このシステムが実現すれば夜の時間帯でもさまざまな調査を行うことが可能になります。
SFのような世界を実現する可能性を秘めたカルフォルニア工科大学の宇宙太陽光発電プロジェクト(SSPP)。その宇宙太陽光発電実証機(SSPD-1)の成果から今後も目が離せません。
参考文献
In a First, Caltech’s Space Solar Power Demonstrator Wirelessly Transmits Power in Space【2023.6.6 時点】 https://www.caltech.edu/about/news/in-a-first-caltechs-space-solar-power-demonstrator-wirelessly-transmits-power-in-space SSPSに関してよくある質問(FAQ)【2023.6.6 時点】 https://www.kenkai.jaxa.jp/research/ssps/ssps-faq.html 宇宙太陽光発電システム(SSPS)について【2023.6.6 時点】 https://www.kenkai.jaxa.jp/research/ssps/ssps-ssps.html JAXAにおける宇宙太陽光発電システムへの取組状況について(資料3)2017.3.28【PDF】 https://www8.cao.go.jp/space/comittee//27-kiban/kiban-dai28/pdf/siryou3.pdf 宇宙で電力を送るということ 京都大学 三谷先生 2016.07.20【PDF】 http://www.usss.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2021/03/20160720_Mitani.pdf元論文
The Caltech Space Solar Power Demonstration One Mission https://ieeexplore.ieee.org/document/9926883