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女性の30~50%は生涯で1度は性機能の問題を経験すると言われています。
性機能障害は性的関心や性欲の欠如、性的興奮や性的快楽を感じられない、または性行為に肉体的な痛みを感じる、さらには望んでいないのに性的興奮が持続してしまうなど、幅広い性に関する障害が含まれています。
女性の性機能障害が起こる原因はさまざまですが、そのうちの1つに脊椎損傷があげられます。
脊椎損傷を追った人々は体の制御が難しくなるだけでなく、体の感覚を感じなくなってしまうことがあります。
これまでの研究で、脊椎損傷を負った患者たちに最優先で回復したい機能を聴いたところ最も多かったのが性機能と答えたことがわかっています。
性機能は生命を維持することにかんしては必須ではありませんが、生活の質における最も重要な要素の1つとなっています。
しかし女性の性機能障害の治療法の開発は進んでおらず、脊椎損傷の人々の性機能を回復させる有用な方法は開発できていません。
そこで今回ミシガン大学の研究者たちは、健康な女性・性機能障害の女性・脊椎損傷を負った性機能障害の女性、の3グループの女性に対して、クリトリスを電気刺激する方法を試してみることにしました。
研究のきっかけとなったのは、過去に行われた膀胱機能不全を治療するために仙骨の神経に電気刺激をあたえる実験でした。
この研究では膀胱機能を改善することを目的としていましたが、実験の過程で被験者の女性の性機能が予期せぬ改善を起こしたのです。
そのため研究者たちはクリトリスのような性に特化した器官を電気刺激すれば、より女性の性機能を改善できると考えました。
実験に当たってはクリトリスの左右2カ所に薄い電極が貼り付けられ、加えて生殖器の活動変化を調べるため、膣の血流を測定する測量機が膣内部に挿入されました。
これまでの動物実験により、クリトリスの刺激によってメスの膣内の血流が増加することが報告されており、人間の性的興奮を客観的に評価する手段としても利用可能だと考えたからです。
実験準備が整うと、低レベルの電気インパルスを30分間クリトリスに流しました。
結果、3グループ全ての被験者の覚醒レベルが上昇していることが判明。
また覚醒レベルを5段階で評価してもらったところ、脊椎損傷のない女性は5点中1~2ポイント、脊椎損傷のある女性は2~3ポイント増加しているとの答えが得られました。
興味深いことに脊椎損傷を追っている全ての参加者は電気刺激により性器の感覚を感じることができたと答えました。
またクリトリスの電気刺激による膣内の血流変化を調べたところ、刺激の前後で多様な変化が起きていることが判明します。
ただ変化は個人によって違いが大きく、グループ間で有意な傾向はみられませんでした。
一方、予想外なことに、一部の参加者はクリトリスへの電気刺激が始まる前に覚醒レベルが大きく増加していることがわかりました。
この変化については、膣内に測定器が入れられているという事実や、刺激に対する予感によるものだと述べています。
研究者たちは電気刺激のセッションを長期間にわたって繰り返すと、膣内の血流が促進される可能性があると予測しています。
またクリトリスへの電気刺激に加えて、視覚や別の種類の性的刺激を組合わせることができれば、より効率的な治療に結びつくと述べています。
日本において性科学研究はしばしば好奇の目でみられ、研究者だけでなく実験参加者に対してもそうした視線は向けられがちです。
しかし自分が脊椎損傷によって性機能障害に陥ったときを想像してみれば、今回の研究の画期的な取り組みや医学的な重要性に気づくでしょう。
また性科学はヒューマンリプロダクション(人間の繁殖力に関する学術分野)において最重要であるだけでなく、少子化対策や不妊治療において最前線にある分野です。
日本を含め世界的に少子化問題が顕著になっている現代において、人類の繁栄を考えたとき性科学は真面目に向き合わなければならない医学分野でしょう。
元論文
Acute dorsal genital nerve stimulation increases subjective arousal in women with and without spinal cord injury https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2023.04.24.23288935v1.full