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チームは3月から木材の見た目や質量、元素、強度などの分析を開始。
まずマイクロスコープを使った見た目の測定では、いずれの樹種においても、割れ・反り・剥がれ・表面摩耗などの劣化が全く見られないことが確認されました。
次に質量検査で、放射線や原子の衝突による表層の消失や化学変化が起きていないかを調べたところ、重量も化学組成も試験前後でほとんど変化していませんでした。
それからヤマザクラ、ホオノキ、ダケカンバそれぞれの劣化の差を検証しましたが、いずれも有意な差はなかったとのことです。
チームは事前の予想として、過酷な宇宙環境により何らかの浸食が生じると見ていましたが、予想に反し、木材は見た目・質量ともにほぼノーダメージだったのです。
この結果を受けてチームは、2024年に打ち上げを計画している木造人工衛星・LignoSat1号機に使用する樹種を「ホオノキ」に決定しました。
宇宙曝露では差がなかったものの、ホオノキは地上での試験(加工性の高さ・寸法安定性・強度)で特に優秀な成績を残しています。
チームはすでに来年2月以降の打ち上げと運用開始を予定していますが、では人工衛星の材料をわざわざ「木材」に変えることに何のメリットがあるのでしょうか?
まず第一に挙げられるのが「地球環境に優しい衛星になる」ことです。
現在の人工衛星は主に、軽くて耐久性に優れたアルミニウム合金などの材料が使われています。
役目を終えた人工衛星はスペースデブリとして宇宙に留まらないよう、地球大気圏に突入させることになっています。
ところが研究者によると「アルミニウムは大気圏に突入する際に酸素と反応して酸化アルミニウムになり、小さな粒子を作り出す」という。
「これを計算すると、1μmのアルミニウム粒子は40年ぐらい大気圏内に滞留し、それが大量に蓄積すると、太陽光を反射し、冷却化など地球の気象変化が起きる可能性がある」のです。
しかし木材は水素と炭素と酸素からなるため、大気圏に突入しても水蒸気と二酸化炭素にしかなりません。
加えて、木材は電磁波を通すことができます。
従来のアルミニウム合金だと電磁波をシャットアウトするので、人工衛星を作る際は通信用アンテナを外に出して展開しなければなりません。
すると、アンテナを開閉するメカニズムが複雑になって失敗のリスクが高まるのです。
他方で、木材は電磁波を通すのでアンテナを外に出す必要がなく、衛星の内部に収納できます。
この他にも、木材はマイナス100℃からプラス100℃まで物性が変化せず、安定性や断熱性が非常に高いなどの利点もあります。
宇宙空間には水分や酸素、バクテリアが存在しないので、燃えることも腐ることもありません。
今回の試験を踏まえても、木材は過酷な宇宙環境で劣化せず、長期間にわたって使用できると考えられます。
チームは今後、木造人工衛星の打上げに向けて最終的な調整を進めていく予定です。
地球の木材産業が宇宙開発にまで拡大する日が近いかもしれません。
参考文献
世界初、10か月間の木材宇宙曝露実験を完了~木材用途の拡大、木造人工衛星(LignoSat)の打上げを目指して~ https://sfc.jp/information/news/2023/2023-05-12.html 京大と住友林業、木造人工衛星の打ち上げに向けた宇宙での木材暴露実験を完了 https://news.mynavi.jp/techplus/article/20230512-2677989/ 木造人工衛星は宇宙の森作りへの第一歩 土井隆雄さんが学生と描く未来とは https://news.mynavi.jp/techplus/article/20230515-2677725/