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これは簡単にいうと、脳のある部分で動脈と静脈が毛細血管を介さずに直接つながってしまい、血管のかたまり(専門的にはナイダスと呼ぶ)ができてしまう先天性疾患です。
正常な胎児では、動脈と静脈の間の毛細血管が血圧を下げるクッションとして働きます。
しかし毛細血管がないと動脈の血流がそのまま静脈に流れ込むため、血圧が高くなり、薄い血管の壁を破りやすくなるのです。
そうなると脳出血やくも膜下出血といった命にかかわる症状が起こってしまいます。
無事に生まれてきたとしても、血流異常から心臓や肺に大きな負担がかかり、心不全や肺高血圧症(心臓から肺へ血液を送る血管の血圧が高くなる病気)の発症率も高まるのです。
この病気は一般に「血管内塞栓術」という方法で治療されます。
これは胎児が生まれた後に、カテーテルを脳内の患部に挿入し、動脈と静脈の結合部に液体状の塞栓物質を注入して固めることで、異常な血流を遮断するというものです。
新生児にも比較的負担の少ない方法とされていますが、それでも出産後では手遅れになるケースが多いといいます。
また研究主任のダレン・オーバック(Darren Orbach)医師は「手術に成功した場合でも重度の神経的および認知的な障害が残りやすい」と話します。
そこで研究チームは、胎児が母親のケニヤッタさんのお腹にいる状態で、血管内塞栓術を世界で初めて行うことにしました。
手術は今年3月15日、ケニヤッタさんの妊娠34週と2日の時点で実施されています。
医師団はまず、超音波ガイドで胎児の姿勢をモニタリングしながら、頭が母体の腹壁に向いていることを確認する必要がありました。
さらにその位置から動かれてはまずいので、頭が最適な位置に来たときに少量の麻酔を注射して胎児の動きを止めています。
そこからチームはケニヤッタさんの腹壁から細い針を刺し、胎児の頭まで慎重にカテーテルを通し、脳内の患部まで挿入。
血管内塞栓術と同じ方法で、動脈と静脈の間の異常な血流を遮断し、血圧が正常値まで低下するのを確認しました。
これは胎内の胎児に対する世界初の手術の成功例とのことです。
そして2日後の3月17日、手術を受けた胎児は元気な女の子として無事に産声を上げています。
女児はデンバー・コールマン(Denver Coleman)ちゃんと名付けられました。
母親のケニヤッタさんは「初めて泣き声を聞いた瞬間は言葉にならないほどの感動を味わいました」と話しています。
研究主任のオーバック氏は「術後から6週間が経過した時点で、女児は驚くほど順調に成長している」と説明。
「他の赤ちゃんと同じようによく食べ、よく寝て、体重も増えており、脳への悪影響も見られず、薬の服用もしていません」と続けています。
出生後のエコー(超音波)検査でも心拍数は正常でした。
数週間は病院で見守られていましたが、何らの異常も見られないので、現在はすでに自宅の家族の元に帰っているとのことです。
オーバック氏は最後にこう話しました。
「今回の胎内手術は世界初の成功例であり、ガレン静脈奇形の治療におけるパラダイムシフトとなる可能性を秘めています。
私たちは今後、同じ病気を抱える胎児にも普遍的に手術を行えるよう、手術の効率や安全性を向上させていくつもりです」
参考文献
Doctors performed brain surgery on a baby before she was born and now she’s thriving https://edition.cnn.com/2023/05/04/health/brain-surgery-in-utero/index.html In first in-utero brain surgery, doctors eliminated symptoms of dangerous condition https://newsroom.heart.org/news/in-first-in-utero-brain-surgery-doctors-eliminated-symptoms-of-dangerous-condition?preview=597c元論文
Transuterine Ultrasound-Guided Fetal Embolization of Vein of Galen Malformation, Eliminating Postnatal Pathophysiology https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/STROKEAHA.123.043421