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メリーランド大学の地質学者で研究主任のヴェドラン・レキッチ(Vedran Lekic)氏は「それから100年以上経った今、私たちは同じ手法を火星に適用することにしたのです」と話します。
今回使用されたのは、NASAの火星探査機・インサイト(InSight)が過去4年間にわたり収集した地震データです。
インサイトはこれまでに火星表面で数百回の火山性地震を検出し、火星の内部に関する詳細な情報を得ています。
さらに2021年に、インサイトがいる地点のほぼ反対側で起きた2つの途方もない巨大地震のおかげで、これまでにない詳細な火星内部のデータが得られました。
火星コアを間に挟んで地震波が得られたのはこれが初めてでした(下図)。
そしてインサイトは火星の表面と内部を伝播する衝撃波を分析することで、ついに火星コアの実態を解き明かしたのです。
結果、火星コアは地球とは違い、すべてが液体状の鉄合金でできていることが判明しました。
地球は先述したように、内核が固体で外核が液体です。
さらに火星はコアに含まれる軽い元素の割合が非常に高く、コア重量の約5分の1が硫黄を中心とした軽元素で、その他に酸素や炭素が存在していました。
これは地球コアに含まれる軽元素の割合が比較的少ないのとは異なり、地球コアよりも密度が低く、圧縮性が高いことを意味します。
そしてこの違いから、生命の存在にとって重要な”磁場シールド”が火星にない理由が説明できるかもしれません。
地球には、その表面を覆うようにして磁場のシールドが幾重にも張られています。
磁場は太陽風が地上に直接降り注ぐのを防ぎ、大気や水を守ってくれています。
もし磁場シールドがなくなると、太陽風が直接惑星に当たることで大気は宇宙空間に飛散し水も失われてしまいます。
そうなれば生命は生きられない星になってしまうでしょう。
この生命の存在にとって重要な磁場は、地球内部の大規模な流体運動によって生成します。
内核(固体)の熱が外核(液体)に移動することで循環流が発生し、さらに自転の影響を受けて、現在の放射状のパターンに広がるのです。
これを「ダイナモ理論(geodynamo)」と呼びます。
一方で、火星には地球のような磁場シールドがないことが知られています。
今回判明した火星コアにもとづくと、軽元素の多さや密度の低さが、火星における磁場の発生および維持を阻害している可能性があるようです。
しかし過去の研究では、約40億年前の火星には磁場が存在していたことが示されています。
それがなぜ現在のような火星コアになり、磁場が消えてしまったのかはまだ分かりません。
レキッチ氏は「まるで穴埋めパズルのようなものだ」と話します。
「本研究では、火星コアに水素の痕跡がわずかに見つかっており、火星にはかつて水素が豊富に存在できるような環境があったことが窺えます。
火星がどのような変遷をたどって今日の姿になったかを理解するには、更なる研究が必要です」
その穴埋めをする上で、今回判明した火星コアの実態は貴重なヒントとなるでしょう。
参考文献
In an Incredible First, Scientists Have Discovered What’s at The Core of Mars https://www.sciencealert.com/in-an-incredible-first-scientists-have-discovered-whats-at-the-core-of-mars Scientists Detect Seismic Waves Traveling Through Martian Core for the First Time https://cmns.umd.edu/news-events/news/scientists-detect-seismic-waves-traveling-through-martian-core-first-time元論文
First observations of core-transiting seismic phases on Mars https://www.pnas.org/doi/full/10.1073/pnas.2217090120