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しかし、「ハコクラゲ」は、網膜や角膜、水晶体を備えた「画像を形成できるほど高性能な目」を持つことで知られています。
もちろんハコクラゲも脳を持たないため、脳で画像を処理することはありませんが、その高性能な目で明暗を感知するだけでなく、特定の光点を見分けることができると考えられています。
この特性はハコクラゲの生息地とも関連しています。
ハコクラゲは、広々とした外洋に生息する他のクラゲたちとは異なり、障害物が多い浅瀬に生息する傾向にあります。
そして科学者たちはこれまでに、ハコクラゲがマングローブ(海水と淡水が混ざり合う汽水域に生える植物の総称)の密集する湿地をスムーズに泳ぐのを見てきました。
しかもハコクラゲは、獲物が来るのを受動的に待つのではなく、積極的に狩りを行ったり、交配相手を正確に識別できたりします。
視界の悪い水域だからこそ、その高性能な目が役立っているようです。
またハコクラゲは、激しい痛み、意識障害、呼吸困難、心停止を引き起こす強力な毒を持つことで人々から恐れられてきました。
実際、ハコクラゲに刺されて人間が死亡したというニュースがたびたび報道されており、年間数十人もの人々が犠牲になっています。
そんなハコクラゲは、これまでに約50種の存在が知られてきましたが、この度、香港で新種が見つかったようです。
新種のハコクラゲが見つかったのは、マイポ自然保護区の水域です。
マイポ自然保護区は、香港の北西に位置する自然豊かな湿地であり、淡水池や干潟、マングローブ、ヨシ原などで構成されています。
「鳥たちの楽園」とも呼ばれており、様々な生物が生息しています。
研究チームは、そんなマイポ自然保護区の中でも、エビや魚の養殖に使用される水域から、クラゲのサンプルを収集。
その中にハコクラゲの新種を発見したのです。
この新種は、トリペダリア(Tripedalia)属の3番目の種であり、発見された地域の名を取って、「トリペダリア・マイポエンシス(Tripedalia maipoensis)」と名付けられました。
無色透明で平均体長は1.5cm。箱形の傘の四隅には、長さ10cmほどの触手がそれぞれ3本あります。
そして各触手の根本部分には、ボートのオールに似た平らな構造を持っており、これが強い推進力を生み出すのに役立っているのだとか。
またトリペダリア・マイポエンシスも、他のハコクラゲと同様、24個の目がありました。
まずトリペダリア・マイポエンシスの傘の4辺には、それぞれ「ロパリウム」と呼ばれる感覚構造のグループが存在しています。
そしてこのロパリウムには、「上部レンズ眼」1つ、「下部レンズ眼」1つ、「ピット眼」2つ、「スリット眼」2つの合計6つの目が含まれています。
トリペダリア・マイポエンシスの体にこうしたロパリウムが4つあるため、合計24個の目が存在することになるのです。
そしてこのうち「上部レンズ眼」と「下部レンズ眼」が高性能な目です。
これまでの研究によると、水面を見上げる上部レンズ眼が、水上の世界から光を集めており、これがマングローブの枝や葉などの存在を見つけるのに役立っていることが示唆されています。
また下部レンズ眼は水中の障害物を判断しているようです。
「ピット眼」や「スリット眼」は、他のクラゲが持っているものと同じく性能は高くはありませんが、周囲の明暗を検出できます。
そしてこれらの情報は、各ロパリウムにある約1000の神経で処理され、トリペダリア・マイポエンシスの行動に影響を与えるようです。
研究チームは、クラゲの中でも特殊なハコクラゲの新種が見つかったことは、香港周辺の海洋生物の多様性の豊かさを示すものだと考えています。
参考文献
HKBU-led team discovers new box jellyfish species in Mai Po Hong Kong https://www.hkbu.edu.hk/en/whats-new/press-release/2022/HKBU_le_team_discovers_new_box_jellyfish_species_in_Mai_Po_Hong_Kong.html元論文
A New Species of Box Jellyfish (Cnidaria: Tripedaliidae: Tripedalia) from Hong Kong, China https://zoolstud.sinica.edu.tw/Journals/62/62-17.html