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移動はあらゆる動物が生きていく上で欠かせない能力です。
体サイズやスピード、持久力によって、その動物が移動できる距離や餌を見つけられる場所が決まってきます。
しかし近年、温暖化や人為的な環境破壊によって野生動物の生息地が分断されており、食糧や水資源を得るための移動範囲に影響が出ています。
そこで研究チームは、動物たちの移動能力の理解を深めるべく、体サイズと移動速度の関係性を調べるコンピューターモデルを開発しました。
今回の調査では、野生下で自由に移動している動物532種を対象とし、飼育下にある個体は除外しています。
レーダー追跡装置やビデオ録画で収集したデータをもとに「普段歩きのスピードが体重ごとにどう変わるか」を分析しました。
その結果、動物たちは体が大きくなるにつれて移動速度を増加させ続けましたが、体重が1トンを超えた途端に、速度は横ばいになり減少に転じ始めたのです。
普段の移動速度で最も速いスピードを維持できたのは、オオカミを代表とする中型の動物たちでした。
しかしゾウやキリンなど体重が1トンを超えると、どの種も「のっそり歩き」になっています。
これは動物園などで動物たちの動きを見ているだけでも、実感の持てる結果です。たしかに大きな動物は悠々とのっそりと動きます。しかし、それはなぜなのでしょうか?
研究者たちこの理由について、大型動物はオーバーヒートを避けるために普段歩きをゆっくりにする必要があるのではないか?と考えました。
恒温動物は熱の生産量が体重にほぼ比例しており、熱の放出量は体表面積にほぼ比例しています。
そして動物たちは、この関係性に従って体温を一定に保つために余分な熱を外に逃す必要があります。
これまでの研究から、体が大きい動物ほど体重あたりの体表面積は小さくなり、体内に熱を貯めやすい事がわかっています。
これは寒い地域に向かうほど、恒温動物の体が巨大化しやすいという「ベルクマンの法則」から示されている事実です。
一方で、暑い地域では熱を体に溜め込みすぎるとオーバーヒートを起こして、呼吸困難や失神、熱中症になりかねません。
それゆえ、大型動物たちは動きすぎることによるオーバーヒートを避けるために「ゆっくり動いている」と考えられるのです。
研究チームはこうした考えに基づき、動物のサイズと熱放出量の関係を調査し、動きの速度を分けるラインが「体重1トン」前後にあることを発見しました。
動物たちは、体重1トンを目安に、動きすぎるとオーバーヒートする危険があるようなのです。
しかしそうだとすると、ゆっくり動かなければならない問題は、水の中で暮らす大型動物にはあまり関係がないように思えます。
ところが興味深いことに、体を簡単に冷やすことのできるカバのような水棲動物でも結果は同じだったそうです。
これを受けて、研究主任のアレクサンダー・ダイヤー(Alexander Dyer)氏は次のように話しました。
「本研究の成果は、体サイズをもとにすれば、あらゆる動物の移動能力を種や生息地の違いを超えて推定できることを示唆するものです。
この方法を応用すれば、詳しい生態が不明な動物でも、どれだけの移動範囲を持つか推定できるようになるでしょう」
温暖化や生息地の減少が進む現在では、動物の移動能力に応じた適切な保護範囲を理解することはとても重要です。
子供の疑問に答えるような今回の研究は、こうした動物の保護にも役立つ可能性があるようです。
参考文献
Large animals travel more slowly because they can’t keep cool, finds study https://phys.org/news/2023-04-large-animals-slowly-cool.html Why the biggest animals move so slowly https://www.popsci.com/environment/large-animals-heat-travel-climate/ Large animals travel more slowly because they can’t keep cool(iDiv) https://www.idiv.de/en/news/news_single_view/5136.html元論文
The travel speeds of large animals are limited by their heat-dissipation capacities https://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.3001820